素通り
笑府
ある女房、夜中にきざしてきたが、口に出しかねて、
「ねえ、あなた、壁際の方へ寝てよ」
といった。亭主は女房の体の上を越えて行ったが、手を出そうとはしない。そこで女房はまた、
「やっぱり元の方がいいわ。もういっぺん入れかわってよ」
という。亭主はまた女房の体を乗り越えて行ったが、やはり手を出そうとはしない。すると女房は、
「誰もわたしの気持をわかってくれない!」
といって、わっと泣きだした。亭主が、
「どうしたんだ。それはどういうことだ」
ときくと、
「あなたは門の前を二度も通りながら、中へはいってみようともしないじゃないの。そんな人にわたしの気持がわかるものですか」