笑府
ある人、郊外で遺骸が野ざらしになっているのを見てあわれに思い、これを埋めてやったところ、夜中に戸をたたく音がした。
「誰だ」
ときくと、
「妃(ひ)です」
という。
「妃とおっしゃいますと……」
「はい、楊貴妃(ようきひ)です。馬嵬(ばかい)で殺されて遺骸が野ざらしになっておりましたのを、埋めてくださいましてまことにありがとうございました。つきましてはそのお礼として、一晩お傍(そば)に仕えさせていただきたいと思いまして」
そして一晩、枕を共にして帰って行った。
隣りの男、それをきいてうらやましくてならず、さっそく郊外へ出かけて行ってさがしまわった末、ようやく野ざらしの遺骸を見つけて、これを埋めてやった。すると、夜中に戸をたたく音がした。
「誰だ」
ときくと、
「飛です」
という。
「飛とおっしゃいますと……」
「張飛(ちようひ)です」
という返事にその男、ぎょっとして、
「張飛将軍がどうしてわたくしなどのところへ?」
「拙者は〓中(ろうちゆう)で殺されて遺骸が野ざらしになっていた。それを埋めてくださった段、まことにかたじけない。ついてはそのお礼として、お粗末ながら拙者の尻を一晩ご用立てしたいと存じ、かく参上した次第でござる」