笑府(江戸、須原屋板)
ある天子が、有徳の高僧をさがし出して師と仰ぎ、解脱(げだつ)の道を求めようと思い立った。ところが、出家には色を好む者が多く、世に高僧といわれている者でも、じつは欲心が深く、真に清浄な者はほとんどいない。
そこで天子は一計を案じ、各地から、高僧としてあがめられている者十余人を招いて、宮中の一室に集めた。ちょうど夏だったので、一同を輪になるように立ち並ばせ、衣(ころも)をぬがせて裸にし、各人の臍(へそ)の下に太鼓をつるした上、宮中の美女十余人を呼んでその輪の中へ入れ、衣裳をぬがせて全裸にし、ころげまわらせたり、歌い踊らせたりして、僧侶たちの一物が硬(お)えるかどうかによって欲心の有無を知ろうとした。
さて、宮女たちが裸になったとたん、僧侶たちの一物はみな硬えて、四方の太鼓がいっせいに鳴りだした。ところがそのなかで、一人の僧侶の太鼓だけは音をたてないばかりか、微動だにしない。
天子はそれを見て大いによろこび、
「あの僧こそ、わが師と仰ぐべきまことの高僧だ」
といい、侍臣に命じて衣を着せかけさせ、歩み寄って、
「わたしの、弟子としての礼をお受けいただきたい」
といってその僧侶の前にひざまずいたところ、見れば、その僧侶の太鼓は鳴らぬのも道理、一物によって突き破られていたのであった。