笑海叢珠
貪欲な役人がいた。ある下役人がその気持を察し、銀で人形を造って役人の机の上に置き、奥へ知らせに行った。
「家兄が役所でご下命をお待ちいたしております」
家兄とは兄のことだが、兄のように頼りになるという意味から俗に銭のことをもいうのである。
役人が出て行って見ると、机の上に銀の人形があったので、ふところへしまってまた奥へもどって行った。
その後、その下役人は些細なことで棒打ちの刑をくらうことになったので、
「どうか家兄に免じておゆるしくださいますよう」
と哀願した。すると役人はいった。
「おまえの家兄は、わしが着任してから一度顔を見せたきりで、二度とやって来ないじゃないか。だからおまえを棒打ちにするのだ」