笑海叢珠
宋の黄丕(こうひ)が梅水県の知事になったときのことである。丁福(ていふく)という者と冉乂(ぜんかい)という者とが殴りあいの喧嘩をし、冉乂が丁福の顔に傷をつけた。下役人の報告をきいた黄丕は、酒に酔ったまま二人を裁き、税金を取りたてるときに使う千斤秤(きんばかり)で二人の体重をはからせた。傷を受けた丁福は百斤あったが、傷を負わせた方の冉乂はその半分もなかった。すると黄丕は、
「丁福の方が重いな。よろしい、丁福には臀(しり)に笞十三の刑を加える。冉乂は無罪とする」
といいわたした。そこで下役人が、
「加害者が無罪で、被害者が罰をくうとはどういうわけでしょうか」
とたずねると、黄丕はいった。
「おまえは法律にちゃんと書いてあるのを知らないのか。『二罪倶(とも)に発するときは重き者を以て論ぜよ』とあるではないか」