艾子後語
艾子(がいし)が朝食をすませて表を散歩していると、近所の男が飼犬を二匹、棒でかついで西の方へ行く。艾子が呼びとめて、
「おまえさん、その犬をどうするのだね」
ときくと、
「肉屋に売るのです」
という。
「それは番犬だろう? どうして肉屋へ持って行くんだね」
その男は犬を指さしながら罵っていった。
「この畜生ったら、昨夜泥棒がはいったのに、おそれてじっとしていて、一声も吠えなかったくせに、今日門をあけたら、見さかいなしに吠えたて、むちゃくちゃに噛みついて、大事なお客さんに怪我をさせやがったんです。それで殺してしまおうと思いまして」
艾子はそれをきいていった。
「よろしい。そんな犬は殺してしまうがよい」