笑林広記
知事から、純金二錠を購入するゆえ持参せよという書状がとどいた。商人がさっそく役所へ持って行くと、知事、
「値段はいくらじゃ」
「時価ではこれこれでございますが、知事さまにお買い上げいただくことですから、その半値(はんね)頂戴すれば結構でございます」
すると知事は側近の者に、
「では一錠は返してやれ」
といった。商人が一錠を受け取り、あとの一錠ぶんの代金をもらおうとして待っていると、知事、
「代金はもうはらったぞ」
「いいえ、まだ頂戴しておりません」
すると知事は大いに腹を立てていった。
「けしからぬやつだ! おまえは半値もらえばよいといったではないか。それゆえ二錠ぶんの代金の半値として一錠を返してやったのだ。おまえは一文も損をしておらぬではないか。それなのにこの上、代金を請求するとは不埒(ふらち)千万。ものども、こやつを叩き出してしまえ」