笑府・笑得好
ある男、靴直しという看板を出して店を開いていたが、靴底にする皮は一足(そく)分しか持っていなかった。そこで、靴底をつけるときには必ず落ちるようにつけ、客のあとをつけて行って落ちたのを拾ってきては、別の客にそれを使って、同じことをくりかえしていた。あるとき、客のあとをつけて行ったところ、どこまでつけて行っても落さないので、あきらめて帰り、
「ああ、とうとう元手をなくしてしまったわい」
とがっかりして土間を見ると、そこに靴底が落ちていた。客は店を出ないうちに、もう落して行ったのだった。