笑林
楚に貧乏な学者がいた。あるとき『淮南子(えなんじ)』を読んでいて、「蟷螂(かまきり)は蝉(せみ)をねらうとき、葉にかくれて身をかくすことができる」とあるのを見つけ、さっそく木の下へ行って葉を見上げると、はたして蟷螂が葉にかくれて蝉をねらっていた。そこでその葉を叩き落したが、もとから落ちていた葉のなかへまぎれ込んでしまい、どれがその葉なのか見わけがつかない。そこで葉を全部掃き集めて持ち帰り、一枚一枚手に取って体をさえぎり、妻に向って、
「おい、おれが見えるか」
ときいた。妻ははじめのうちは、
「見えます」
と答えていたが、そのうちにだんだんうるさくなってきたので、
「見えません」
と答えた。すると男は大よろこびをし、その葉を持って市場へ行き、人の目の前で人の物を取った。そこで役人に捕えられ、役所へ引っぱって行かれた。
県知事に訊問されて男が事の次第を白状すると、知事は大笑いをして無罪放免にした。