笑海叢珠・笑府
ある人、子供のために素読(そどく)の先生を雇った。ところがその先生がよく字を読みまちがえるので、主人は、
「気をつけてください。これからは一字読みまちがえるごとに一月(ひとつき)ぶんの月謝を差し引きますから」
といいわたした。
年末になって主人が先生の読みまちがえた回数をかぞえてみると、月謝は二ヵ月ぶん払えばよいことになった。そこで先生にそのことをいうと、先生は慨嘆して、
「これ何の言おこる、これ何の言おこる」
といった。すると主人がいった。
「それで残った二月(ふたつき)ぶんの月謝も消えてしまいましたな」
『孝経』に「これ何の言ぞや、これ何の言ぞや」(是何言與、是何言與)という句がある。先生はその「與」を「興」とまちがえて「おこる」と読んだのである。