笑府
素読(そどく)の先生が二人、死んで閻魔大王の前に引き出された。一人はよく字を読みまちがえる先生であり、一人はよく句読(くとう)をまちがえる先生であった。
取調べが終ると、大王は罰として、字を読みまちがえる先生は狗(いぬ)に、句読をまちがえる先生は猪(ぶた)に生れかわらせる、と申し渡した。
すると、字を読みまちがえる先生が大王に請願した。
「狗に生れかわるのでしたら、どうか母狗(めすいぬ)にしてくださいませ」
「どうしてじゃ」
「『礼記(らいき)』に『財に臨んでは母狗これを得、難に臨んでは母狗これを免る』(臨財母狗得、臨難母狗免)とございますから」
——『礼記』には「財に臨んでは苟(いやし)くも得る毋(なか)れ、難に臨んでは苟くも免るる毋れ」(臨財毋苟得、臨難毋苟免)とあるのだが、この先生、閻魔庁に来てもなお「毋苟」(苟(いやし)くも毋(なか)れ)を「母狗(めすいぬ)」と読みまちがえているのである。
句読をまちがえる先生の方も、大王に請願した。
「猪(ぶた)に生れかわるのでしたら、どうか南方に生れさせてくださいませ」
「どうしてじゃ」
「『中庸』に『南方の之(ぶた)は、北方の之よりも強(まさ)る』(南方之、強與北方之)とございますから」
——『中庸』には「南方の強か、北方の強か」(南方之強與、北方之強與)とあるのだが、この先生、「之(チー)」と「猪(チユー)」が江南音では同音(ツー)になることから「之」を猪の意に解した上で、句読をまちがえ、「南方之」で切り「強與北方之」で切ったのである。