笑府
余姚(よよう)から蘇州へ出稼ぎにきて、住込みの家庭教師をしている先生、毎年春のはじめにやってきて歳の暮れに帰郷するので、故郷の景色をほとんど見たことがない。
ある日、住込んでいる家の庭の柳が緑の芽をふいているのを見た先生、しばらく見惚れていたが、主人に向って、
「まことにあつかましいお願いですが、あれを一株頂戴できないでしょうか。郷里へ送って植えたいと思いますので」
とたのんだ。
「あれはごく普通の柳で、どこにでもあるものですよ。ご郷里にもないはずはないと思いますが」
と主人がいうと、先生、
「あるにはあるのですが、しかし、わたしの郷里のは葉がございません」