笑府
ある人が道教の寺へ知りあいの道士をたずねて行ったが、どこにいるかわからない。ちょうど一人の道士が机に向い、俯向(うつむ)いてお札(ふだ)に朱印を捺(お)していたので、
「赤鼻のお師匠さんはどこにいらっしゃいましょうか」
とたずねた。するとその道士は、法事をするために呼びにきたのだと思い、いそいで鼻の先に印肉をつけて顔を上げ、
「わたしですが、何のご用でしょうか」
といった。その人が、
「前に少しお金をお貸しいたしましたので、今日はそれをいただきにまいりました」
というと、道士はあわてて手の甲で鼻の先を拭(ぬぐ)い、東の方を指さして、
「それなら、あちらの坊におります」