笑海叢珠・広笑府
四川(しせん)に王尋竜(おうじんりゆう)という墓相見(ぼそうみ)がいて、なかなかよくあたるという評判であった。華州(かしゆう)の陳(ちん)知事はその評判をきき、自分の家の墓地を移す土地を王尋竜に見立てさせた。
王尋竜は陳知事といっしょに一ヵ月あまりも各地を見てまわり、ようやく墓相のよい土地を見つけた。いよいよ改葬の日になって、知事の親戚や友人たちが集まると、王尋竜はいった。
「改葬の儀式は、辰(たつ)の刻(八時)にはじめてください。その時刻になると、南の方から鉄鍋を持った男が来るはずです。それが吉祥の証拠です」
やがて辰の刻に近くなると、南の方に一人の男があらわれた。籠くらいの大きさの黒い物をかついでいる。近づいてくるのを見ると、それは村の若者だったが、かついでいる物は王尋竜の予言どおり鉄の鍋であった。
会葬の人々はみな感嘆した。
「えらいもんだ。ぴったりあたった。鉄鍋を持っているし、時刻もちょうど辰の刻だ。どうしてあたるのだろう」
そのとき、鉄鍋をかついだ村の若者は一同の前にきて、大声でいった。
「尋竜さん、尋竜さん。あんたにたのまれたとおりにして鍋を運んできたが、どこへ置いたらいいのかね」