笑賛・笑府
ある易者、息子がいっこうに家業を習おうとしないので、
「そんなことでわしの後つぎができるか」
と叱ると、息子は、
「占いなんかわけないよ」
という。その翌日、雨風(あめかぜ)の中を一人の男が占いをたのみにきたので、父親は試しに息子にやらせてみることにした。すると息子はすぐ出て行って客にたずねた。
「あなたは東北(ひがしきた)の方からいらっしゃいましたね」
「はい」
「あなたの姓は張(ちよう)ですね」
「そうです」
「あなたは奥さんのために占いにみえたのですね」
「はい、そうです」
客は息子をすっかり信用し、よろこんでその占いをきいて帰って行った。
父親はおどろいてたずねた。
「おまえはどうして客のことがあんなによくわかったのだ」
「あの人の着物は肩と背中がずぶ濡れだったでしょう。今日の風は東北から吹いているから、あの人は東北の方から西へ向ってきたことがわかるじゃありませんか。それから、あの人の傘の柄には清河郡と彫ってあったでしょう。清河郡の人ならみな張姓じゃありませんか」
「それはそうだが、しかし、奥さんのために占いにきたということがどうしてわかったのだ」
「こんな雨風のひどい日に占いにくるなんて、奥さんのためにきまっていますよ。父親や母親のためなら、こんな日にわざわざくるはずはないじゃありませんか」