艾子雑説・笑賛
村はずれのお宮に木彫りの神像があった。一人の男がその前を通りかかったが、溝(みぞ)があって越えられないので、神像を取ってきて溝に渡し、その上を踏んで行った。
そのあとからまた一人の男がきた。その男は溝に渡されている神像を見て、
「こんな勿体(もつたい)ないことするとは」
と慨嘆し、神像を抱きおこして着物でほこりを払い、もとの台座の上に立てると、再拝して立ち去った。
すると神様は、その男が香(こう)も焚かずに行ってしまったことを咎めて、その男に頭の痛くなる災難を降(くだ)した。神様の家来の判官や小鬼たちが、不審に思って、
「どうして神様は、ご自分を踏んで行った男には災いを降されずに、おこしてくれた男に災いを降されたのですか」
とたずねると、神様は、
「前の男は信心をしておらぬから、災いを降しても仕様があるまい。それに、悪人はうるさいが、善人はあなどり易(やす)いからじゃ」