笑府
主人、客が焼肉をおいしそうに食べているのを見て、童子を呼び、
「お客さまの皿を台所へ持って行って、焼肉をつけ足しておいで」
といいつけた。
童子は台所にまだ余分があると思っていたので、皿の中に残っている肉を途中でみな食べてしまった。ところが台所へ行ってみると、残りはないというので、皿を置いてもどってきて、主人に、
「もう、ないそうです」
といった。すると主人は、
「さっき、皿の中に残っていた分はどうした」
ときいた。
「途中で滑ってころびまして、落してしまいました」
童子がそういってごまかすと、主人は怒って、
「うそをいうな! だが、もし『滑』という字が書けたら、ゆるしてやろう」
すると童子は指で掌(てのひら)に「滑」の字を書きながらいった。
「一点、また一点、また長い一点。そのあとは『骨』でございます」
一点とは少しという意味である。少しずつ食べて骨しか残らなかったと、童子は白状したのである。