世説新語(簡傲篇)
竹林の七賢の一人〓康(けいこう)は、呂安(りよあん)と仲がよかった。二人は互いに、いったん相手のことを思うと、たとえ千里をはなれていても馬車を飛ばして会いに行くというありさまであった。
あるとき、呂安が訪ねて行くと、〓康は居らず、兄の〓喜(けいき)が留守居をしていた。〓喜は呂安を迎え入れようとしたが、呂安は内に入らず、門に「鳳」という字を書いて帰って行った。
〓喜はそれを弟に対するほめ言葉だと思ってよろこんだが、帰ってきた〓康はその字を見て、
「あいつめ」
と苦笑した。鳳という字を分解すると、凡鳥となる。鳥は罵語で、凡鳥とは「くそやろう」という意味である。せっかく訪ねてきたのに居らぬとは、この「くそやろうめ」という意味だったのである。