世説新語(言語篇)
孔文挙(こうぶんきよ)は孔子二十世の子孫で、後漢(ごかん)末の代表的な文人である。
十歳のとき、彼は父といっしょに洛陽へ行った。そのころ李元礼(りげんれい)は司隷校尉(しれいこうい)(行政監督官)で名声が高く、その門を訪れる者は親戚の者か秀才のほまれ高い者かに限られていて、そのほかの者は門を通されなかった。孔文挙はその門を訪れて、取次ぎの役人に、
「わたしは李長官の親戚です」
といった。奥へ通された孔文挙に李元礼が、
「君とはどういう親戚関係になるのかね」
とたずねると、孔文挙は、
「むかし、わたしの先祖の仲尼(ちゆうじ)(孔子)は、長官の先祖の李伯陽(りはくよう)(老子)を師と仰いで教えを受けたという間柄です。つまり孔家と李家とは古いつきあいだということになります」
といった。李元礼や客人たちはそれを聞いて、くちぐちに、
「頭のよい子だ」
とほめた。そこへ太中大夫(たいちゆうたいふ)(侍従官)の陳〓(ちんい)がはいってきて、
「子供のときには頭がよくても、大人になってからもよいとは限らないよ」
というと、孔文挙はすかさずにいった。
「おじさんも、きっと、子供のときには頭がよかったのでしょうね」