戦国策(衛策)
衛の男が花嫁を迎えた。
花嫁は迎えの四頭だての馬車に乗ると、御者(ぎよしや)にたずねた。
「副馬(そえうま)(外側の二頭)もおうちの馬ですか」
「よそから拝借いたしました」
御者がそう答えると、花嫁は、
「それでは、副馬の方に鞭をあてて、服馬(ふくば)(内側の二頭)にはあてないようにね」
といった。
やがて馬車が婿の家の門口に着いた。花嫁は送り役の老女に手をとられて馬車から下りると、その老女に、
「帰ったらかまどの火を消しておいてね。火事になるといけないから」
と注意した。
花嫁は家のなかへはいって、臼(うす)が置いてあるのを見ると、
「これは窓の下へ移しましょう。歩く邪魔になるから」
といった。
婿はこれをきいて、まちがってはいないが早すぎるといって笑った。