笑賛・笑府
橋のたもとや道路の要所などに不祥除(ふしようよ)けとして建てる石柱を、石敢当という。一説には、石敢当は五代(だい)の晋(しん)の勇士の名で、彼はよく凶を吉に化し、もろもろの危難をふせいだため、後世その名を石に彫って守護神にするようになったともいわれる。
さて、ある村の石敢当が、ある日突然、物を言ったという。それをきいたという男が急いで役所へ知らせに行くと、役人はその石敢当をつれてこいと命じた。そこで男が石敢当を背負って行くと、役人はあれこれと石を訊問した。だが石は何もいわない。役人は怒って、
「きさま、嘘をいったな」
と男にいい、笞(むち)打ち十回の罰を加えた上、石を背負って帰らせた。帰る途中、知り合いの者に出会って、
「役所ではどうだった」
ときかれると、男はくやしがって、
「こいつのおかげで、役人に五回も笞を打たれたよ」
といった。すると石敢当が物を言った。
「おまえ、また嘘をいったな。五つもごまかしやがって!」