山中一夕話・笑府
ある貧書生(ひんしよせい)、饅頭を食べたいが金がない。そこで、ある日、町で饅頭を売っている店の前へ行き、大声で叫んでぶっ倒れた。饅頭屋がおどろいてわけをたずねると、書生は、
「饅頭がこわいのだ」
という。饅頭屋は、
「こわいことがあるものか」
といい、饅頭を百個あまり並べた部屋の中へ書生をとじ込めて、外から様子をうかがっていた。しかし、なんの物音もきこえてこないので、不安になって戸をあけてみると、書生は次から次へと手づかみに饅頭をむさぼり食っていて、もう半分くらいしか残っていなかった。
「どうしたんだ」
というと、書生は、
「もう饅頭はこわくなくなった」
という。饅頭屋ははじめてだまされたことに気づき、怒って、
「こんどは何がこわいか」
とどなりつけると、書生のいうには、
「お茶が二、三杯こわい」