笑賛・笑禅録
ある貴人が寺へ行ったところ、僧侶たちはみな立ちあがって迎えたが、中に一人だけ坐ったままの僧侶がいた。
「そなたは、なぜ立ちあがらぬのか」
と貴人がいうと、その僧侶は、
「立つことは立たぬことであり、立たぬことは立つことであります」
といった。
「なるほど、そうか」
貴人はそういうなり、いきなり禅杖でその僧侶の頭を打った。
「なにも打たなくても……」
と僧侶がいうと、貴人は、
「打たぬことは打つことであり、打つことは打たぬことだ」