笑苑千金
済州(さいしゆう)に万端(ばんたん)という人がいた。もとは大金持だったが、零落して都へ流れて行った。都のある寺で、万端は仏像を拝んでいった。
「仏さまは衆生(しゆじよう)を救ってくださるときいております。どうかお慈悲を垂れられてこの貧しい男をお助けくださいませ」
すると仏像が万端にいった。
「わしの威力はそれほど大きくはない。城西の宝相寺(ほうしようじ)へ行きなさい。あそこには百尺ほどもある大仏がいるから、その方(かた)にたのんでみるがよい」
万端が宝相寺へ行って大仏にたのむと、
「わしの威力もそれほど大きくはない。清涼山(せいりようざん)へ行きなさい。あそこには頭が天にとどくほどの大仏がいるから、その方にたのんでみるがよい」
万端が清涼山へ行って大仏にたのむと、
「わしの威力もそれほど大きくはない。黎陽(れいよう)の大仏にたのむがよい。あの方は地面に坐っているが頭は天にとどくほどだから」
万端がまた黎陽へ行って大仏にたのむと、
「わしの威力もそれほど大きくはない。天竺(てんじく)へ行きなさい。あそこには仏が地面に寝ているが、寝ていても上は天にとどくほどだ。その方にたのんでみるがよい」
万端は艱難辛苦してようやく天竺にたどりついた。見れば仏が地面に寝ているので、その耳もとに近寄って心をこめてたのんだ。すると仏がいった。
「わしにたのんでも仕様がない。なにしろわしは、自分でも、寝返りを打ちたくてもそれさえできないありさまだ。他人のたのみなどきいてやれるわけがなかろう」