艾子後語・笑府
艾子(がいし)に十歳あまりになる孫がいた。怠けもので頭がわるく、しかも勉強ぎらいなので、艾子はいつも笞(むち)で折檻(せつかん)を加えたが、少しもよくならない。艾子の息子にとってはこの子がひとり子なので、折檻に堪えずに死にはしないかとおそれて、そのつど、泣いて許してやってくださいとたのんだ。すると艾子は怒って、
「わしは、おまえのためにおまえの子をしつけているのだ。なにがわるいというのか」
といい、ますますひどく折檻するので、息子はどうしようもなかった。
ある朝、雪が降ったところ、孫は雪をかき集めてよろこんでいる。艾子はそれを見ると、孫の着物を剥ぎ取って雪の上に坐らせた。孫は寒さにぶるぶるとふるえている。すると息子は、なにもいわずに自分も着物をぬいで、その子の傍に坐った。艾子が驚いて、
「おまえの子は罪があるから罰を受けるのは当然だ。おまえには罪がないのに、なぜいっしょに罰を受けるのだ」
というと、息子は泣いていった。
「あなたがわたしの子を凍えさせていらっしゃるので、わたしもあなたの子を凍えさせているのです」