笑府
神仙の道にあこがれている夫婦がいた。かねがね六十になったら山にはいって修行しようと話しあっていたが、いよいよそのときがきたので、二人は道教の本山の終南山(しゆうなんざん)へ行った。
「わしが先ず様子を見てくるから、おまえは麓で待っていなさい」
じいさんはばあさんにそういって、一人で山を登って行ったが、頂上まで行くと、本山にいるのは何千何百歳という仙人ばかりで、じいさんに、
「坊やはどこからきたのだい」
ときいた。
じいさんはあわてて山を下り、待っていたばあさんに、
「早く帰ろう」
といった。
「せっかくきたのに、どうして帰るのです」
とばあさんがいぶかると、じいさんのいうには、
「わしはこの年になるのに、坊やと呼ばれたんだよ。おまえが行って、もしお嬢ちゃんと呼ばれたら、おまえだって気持がわるいだろう」