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パラサイト・イブ2-9

时间: 2019-07-27    进入日语论坛
核心提示:       9「先生と話をしてくるよ」 安斉重徳はそういって立ち上がった。 部屋を出るとき、安斉はもう一度娘のほうを振
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「……先生と話をしてくるよ」
 安斉重徳はそういって立ち上がった。
 部屋を出るとき、安斉はもう一度娘のほうを振り返った。しかし麻理子はそっぽを向いていた。口元がきつく閉まっているのが見えた。父親とかかわりたくないという意志がそこに読み取れた。安斉は目を伏せて病室を後にした。
 病棟の白い一直線の廊下を進みながら、安斉は今度の手術のことを考えていた。
 手術から十日が過ぎたが、いまだに麻理子は自分から話しかけてこようとはしなかった。安斉だけではない、担当医である吉住や看護婦たちに対しても、積極的に話そうとはしなかった。こちらから容体を訊いたときにだけ、横を向きながらぶっきらぼうに答えるのだった。
 昨夜も悪い夢を見たらしい。廊下にまで聞こえるほどの悲鳴を上げていたのだという。麻理子の世話をしてくれる看護婦が慌てて揺り起こそうとしたが、なかなか夢と現実の区別をつけることができなかったらしい。だが吉住がどうしたのかと訊いても、麻理子は何も答えようとはしなかった。ただ横を向き、口をつぐんでいた。
 いつのまにかエレベーターホールに来ていた。安斉は下りのボタンを押し、エレベーターが来るのを待った。
 担当医である吉住とは何度も話した。その度に麻理子の自閉的なふるまいが話題にのぼった。
 麻理子には手を焼いているという。二年前とは別人のようになってしまったと吉住はこぼした。
 だが安斉自身、なぜ麻理子が心を閉ざしてしまったのかわからなかった。
 前の移植のときはこうではなかった。それは安斉もはっきりと覚えていた。はじめ、麻理子は移植が受けられることを喜んでいたし、手術が終わった直後もはしゃいで吉住や看護婦たちによく話しかけてきたのだ。
 目の前の扉が開く。安斉は無意識のうちに中に入り、一階のボタンを押した。扉が閉まり、緩やかな下降感が起こる。換気扇が頭上で低いうなりをあげていた。
「慢性|腎不全《じんふぜん》です」
 最初にそういわれたときは、安斉には何のことなのかよくわからなかった。麻理子が小学校四年の冬のことだった。麻理子を待合室に出したあと、主治医は気の毒そうにそういった。医者のテーブルのすぐ脇に小型の電気ストーブが置いてあったのを安斉は覚えている。
「正確には慢性糸球体腎炎といいまして」とその医者はいった。「お子さんの場合は何年にも亘《わた》ってゆっくりと進行してきた腎炎なわけです。尿を漉《こ》し出す場所である糸球体が目詰まりしてしまうんですね。腎臓が働かなくなるので、おしっこが出なくなります。ほら、このデータを見てください。糸球体濾過率《GFR》という値と尿素窒素《BUN》という値で腎不全かどうかだいたいわかるんです。体の中に水分が溜まったままになりますから、お子さんのように体がむくんだり、息切れがしたり、いらいらしたりするようになります」
 嫌な予感がして、安斉は声を落とした。
「……治るんでしょうか」
「残念ながら」
 医師は即座に否定した。その強い言葉に安斉はショックを受けた。
「現在のところ、慢性腎不全の治療法は確立されていないんです。糸球体全体が機能しなくなってしまうので、薬や手術では到底治すことができないんですよ」
「……では、うちの子はどうすればいいんですか」
「透析というのがあります。実は腎不全の患者さんというのはかなりいらっしゃるんです。皆さん透析を受けていますよ。腎臓の代わりをする装置を体につけて、体の中に溜まってしまう尿毒素や余分な水分を取り除いてあげるわけです。いい病院を紹介しましょう。県で一番の透析施設を持っていて、たくさんの腎不全の患者さんが通っていますよ」
 いつの間にかエレベーターが一階に着いていた。降りてロビーに出る。玄関口から入ってくる熱気がエアコンの風を打ち消してしまっていた。安斉はハンカチで首筋の汗を拭き、別棟にある吉住のいる医局へと向かった。
 そういえばこの数年、麻理子とほとんど話したことがないということに安斉は思い当たった。ワードプロセッサの開発にすべてを費やしてきた。仕事をするのが当たり前だという感覚がどこかにあった。今年で五十代に突入する。ここで働かなければ自分の業績を後に残すことができないという思いもあった。
 いや、それはなにも今に始まったことではない。安斉は苦笑した。入社当時からずっとそうだったのだ。仕事のことしか頭になかった。妻も自分で見つけたわけではない。自分から女性に近づいてゆくなどということをしたこともなかった。三十三になって部長から見合いの話を持ち込まれ、あっさりと話がまとまってしまっただけのことであった。新婚当時も、麻理子が生まれてからも、家にはやく帰ろうとはしなかった。日曜もよく出勤し、妻や麻理子と一緒に過ごすこともあまりなかった。
 家を買った直後にもともと体が弱かった妻は亡くなり、広い二階建ての家はただ寂しさを象徴する空間となった。そこで麻理子はひとりで過ごしてきたのだ。
 家に帰るころには麻理子はベッドに入っていた。朝は麻理子を起こし、急いでバス停に向かう。その繰り返しだった。麻理子が腎炎にかかっていることなど、気づくわけがなかった。
 紹介を受けた病院は、確かに透析の設備が整っていた。はじめ麻理子とその病室に通されたときは目を瞠《みは》った。大きな部屋に五〇台近くの簡易ベッドが敷きつめられるようにして置かれており、そのうちのほとんどが患者で埋まっていた。ベッドのひとつひとつに透析のための機械が据え付けられているため、狭苦しい印象を与えた。皆、腕からチューブを伸ばし、けだるそうにベッドに横になっている。雑誌や漫画を読んでいるものもいれば、隣のベッド同士で世間話をして時間をつぶす患者もいた。その間を縫うようにして看護婦たちが動き回っていた。三〇〇人近い透析患者が通院しているのだと説明を受けた。
 患者の年齢は様々だった。麻理子より小さいと思われる子もいれば、皺《しわ》の進んだ七十近い患者も多く見られた。安斉と同年代の男性の姿もあった。電灯の光のせいかもしれないが、総じて血色が悪く見えた。設備は近代的だというのに、どこか疲れた雰囲気が漂っていた。
 麻理子はすぐに透析を受けられるわけではなかった。手術をして、腕にシャントというものを作らなければならないと、その病院の医師は伝えた。透析をするために血管につなぐチューブを腕の中に入れなければならないが、常に静脈血管を確保できるよう、動脈を静脈につなげ、血管を太くして血流をよくするのだそうだ。麻理子には内シャントと呼ばれる方法が採られた。子供に作成するのはやや困難なのだそうだが、感染しにくく長持ちがしやすいとのことだった。
 手術後二週間して、麻理子の透析が始まった。週に三回、学校が終わるとすぐに病院へゆき、一回あたり四、五時間ベッドの上に寝て透析を受ける。最終バスで家に帰ると十時を回っている。それが半年続いた。そのあいだ、安斉はほんの数回しか病院へ見舞いにいってやったことがなかった。麻理子はいつもひとりでベッドに横たわり、左腕からチューブを伸ばして、ぼんやりと窓の外を眺めていたらしい。透析を受けているあいだ、麻理子はなにを考えていたのだろうか。ときどき透析中に浸透圧が変わり痙攣《けいれん》を起こすことがあったという。辛くなかったはずがない。今さらながら安斉は自分の娘がベッドに寝ている姿を思い出し痛々しさを感じた。ベッドの横に設置されているベッドサイドモニターに自分の赤黒い血液が流れ込み、ゆるやかにまわる血液ポンプや細長い透析器《ダイアライザー》を通り、ふたたび自分の腕のなかに戻ってくるのを見ながら、麻理子はなにを感じていたのだろうか。当時の安斉はそんなことすら考えようとはしなかったのだ。
「あくまでこの透析はつなぎの治療だと考えてください」医師はそういった。「小さいお子さんが腎不全になった場合、長期透析をおこなうとどうしても合併症が出てくることが多いんです。まず身長が伸びなくなります。腎臓には成長を促す役割もあるんですが、腎不全のため成長が遅れてくるんです。子供にとって背が伸びるということは大きな意味を持っていますからね。麻理子ちゃんもこのままずっと透析を続けていると身長のことで悩むかもしれません。それに骨障害も起こる可能性があります。性器の発育に影響が出てくることもあります」
「では、透析以外を考えたほうがいいと……?」
「子供の場合にはやはり移植をなさるのが一番でしょう。ご検討されてはいかがですか」
 医師は熱心に薦めてくれたが、そのとき安斉は気持ちが整理できなかった。
 自分の腎臓を麻理子に与える。自分が手術台に乗ってメスで切り開かれ臓器を奪われる。
 即座に決心ができなかった。なにか恐ろしいことのように思えた。大丈夫なのだろうか、自分の体が悪くなるということはないのだろうか。医師に何度もそれを尋ねた。
「君のところの子は、腎臓が悪いんだって?」
 上司と飲みにいったとき、そんな話題が降りかかってきた。安斉は曖昧に返事をして話を逸らそうとした。しかし相当酔っているらしい上司は安斉を離そうとはしなかった。ちょうど生体肝移植の話題がニュースで大々的に取り上げられていた時期だった。
「親が自分の肝臓をわが子に与える、なんと美しい親子愛じゃないか、そうは思わないかね」
 上司は呂律《ろれつ》の回らない口調でいい立てた。
「外国では死体から臓器を掘り出して患者に植え付けるらしいが、あれは野蛮だよ。やはり日本では美しくありたいものだね。安斉君、きみも娘さんに腎臓をやったらどうなんだ。腎臓はふたつあるんだよ。ひとつなくなったとしてもどうってことはないんだ。娘さんが苦しんでいるのを見て何も思わないのかね。きみのところは嫁さんが亡くなっているだろう。だから娘さんはきみしか頼るものがいないわけだよ。きみもニュースに出てくる親御さんを見習ったらどうなんだ。それが愛情ってものだろう」
 安斉は愛想笑いを浮かべながら、しかし腸が煮え立つのを抑えるのに精一杯だった。
 上司の意見は現実に腎不全の子供を持ったことのない人間の理想論にすぎない。そう安斉は思った。では子供に臓器を与えようとしない親は人道的ではないというのか。子供のために親は自分の体まで切らなければならないのか。子供が腎臓や肝臓の病気に罹《かか》ったら、親は無条件に自分の臓器を差し出さないといけないのか。手術を受けるのは誰だっていやなのだ。自分が手術せずに済む方法があるのならそちらを選択したい。そう思うことが美しい親子愛に反するとでもいうのか。だが安斉は日本酒の入ったコップを握り締め、黙って上司の話を聞いていた。
 気がつくと吉住のいる医局に着いていた。安斉はひとつ頭を振り、熱くなった思考を冷やしてから吉住の部屋のドアをノックした。
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