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パラサイト・イブ2-10

时间: 2019-07-27    进入日语论坛
核心提示:       10 恒温槽の水が音を立てて沸騰を始めた。浅倉佐知子はその中にサンプルチューブを入れ、タイマーをセットした
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 恒温槽の水が音を立てて沸騰を始めた。浅倉佐知子はその中にサンプルチューブを入れ、タイマーをセットした。ようやく今日一日の実験が終盤に近づいてきている。浅倉はひとつ息をついて、部屋の中を見渡した。
 浅倉は薬学部の離れにある放射性同位体《ラジオアイソトーブ》実験棟の二階にいた。低レベルの放射性物質を扱う部屋の中である。すでに実験棟の中は浅倉ひとりだけになってしまったのだろう、辺りは静まり返っていた。ふと壁にかけられた時計を見ると、十時半を過ぎていた。今日は夏休みの真ん中だ。浅倉は苦笑した。誰もいないはずだ、こんなときに遅くまで実験をしているのは自分くらいのものだろう。
 浅倉はEve1細胞のミトコンドリアに対するタンパク質の移行《インポート》実験をおこなっていた。朝早くから学校へ来て実験を始めていたのだが、密度勾配遠心によるミトコンドリア画分の調整に思いのほか時間がかかり、アイソトープ標識した酵素タンパクを反応させるときにはすでに外は暗くなっていた。一旦始めてしまうとほとんど休みのとれない実験なので、こうしたサンプルを沸騰させるというわずかな処理時間でも、いまの浅倉にはありがたかった。
 Eve1は不思議な細胞だ。ぐつぐつと泡を立てる水浴をぼんやりと見つめながら浅倉は思った。講座に配属になってからの二年半のあいだ、癌細胞やプライマリー・カルチャーなど幾つもの細胞を利明に見せてもらってきたが、これほど奇妙な細胞はなかった。
 Eve1はいまも増殖を続けている。利明がBSAコンジュゲートさせたクロフィブレートを培地に添加するようになってからは、並の癌細胞より分裂する速度が早くなったようだった。利明はヒトの肝からプライマリー・カルチャーした細胞だと説明していたが、それではこの貧欲《どんよく》なまでの増殖能力が説明できなかった。
 浅倉は何度か利明にEve1をどこからもらったのか尋ねた。あの夜、アイスボックスの中に入っていたものが、クローニングする前の段階のEve1細胞であったことは疑いようがなかったのだ。しかし利明は質問のたびにうまくごまかしてしまった。浅倉は利明には内緒で細胞バンクのカタログを調ベてみたが、Eveなどという名前の細胞は登録されていなかった。文献検索でも引っ掛からないところをみると、いままで誰も一般に報告したことのない細胞らしかった。つまりEve1は、他の研究室から分与されたものではなく、利明が樹立し自ら命名した細胞株だということになる。
 だが、利明はどこから細胞を持ってきたのか。
 利明はずっと妻を看病していたはずだ。そう聞いている。他の大学と連絡を取っている余裕などなかったはずだった。
 そう考えると、答はひとつしかない。
 浅倉は身震いをしてその考えを振り払った。途端にいま自分が扱っているEve1のミトコンドリア画分がおぞましいものに思えてきたのだ。
 永島先生がそんなことをするとは思えなかった。浅倉は利明に感謝していた。この二年半でそれなりに充実した実験ができたのも利明のおかげなのだ。
 浅倉が四年に進学するとき生体機能薬学講座を志望したのには、実はそれほど意味があったわけではなかった。今から思えば学部三年生が講座でおこなわれている研究の内容を把握することなど不可能に近い。同級生の友達も、結局はいい就職口を紹介してくれるからとか実験が楽だからといった即物的な理由で志望講座を決めるものが多かった。
 浅倉も特にどの講座に行きたいという熱烈な希望を持っているわけではなかった。だから三年のときの学生実習も漫然と受けていたのだが、生体機能薬学講座が担当した実習ではじめて浅倉は実験の面白さを感じた。
 それは大腸菌からプラスミドDNAを抽出して、ある遺伝子をその中に組み込むという実験だった。浅倉はそれまでDNAというものを、何か神秘的で崇高なものだと考えていた。しかしプラスミドDNAは驚くほど簡単な操作で抽出することができた。DNAを切り貼りするという恐れ多いことが自分の手でできてしまうのに純粋な驚きを覚えた。浅倉はその感想を、たまたま横にいた先生に漏らした。するとその先生は穏やかに微笑し、「それをわかってもらうのが、この実習の目的なんだよ」と答えた。
 その先生が永島利明だった。
 実習の打ち上げが生体機能薬学講座のゼミ室でおこなわれ、偶然にも浅倉の席は利明の隣になった。浅倉はそこで利明と話し、この講座がミトコンドリアという奇妙なものを実験対象にしていることを知った。
 そのとき浅倉は、この講座に入ろうと思ったのだった。ここならもっとおもしろい実験ができるのではないか、いろいろなことをやらせてくれるかもしれない、そう感じた。
 その願いは叶えられた。偶然は重なり、浅倉は利明の下で実験を進めることになった。それが決まったとき、浅倉はなぜだかひどく興奮したことを覚えている。そして結果的に、利明に実験を習ったことは浅倉にとって幸運だった。利明は多方面に興味を持つタイプで、それに応じて様々な実験手技を身につけていたため、浅倉もいろいろな実験を経験することができた。生化学の分野でおよそ必要と思われる手法はほとんど利明に教わってきた。
 実験は楽しかった。いい結果が出て利明に喜んでもらえるのはもっと楽しかった。データを見たときの利明の考察力に、浅倉はいつも驚かされた。面白い結果が出ると利明は次々と仮説を考え出し、それを証明するにはどうすればいいのか、たちどころに実験系を組み立ててしまうのだった。だが利明はそれらの実験をやみくもにおこなうわけではなく、よく吟味したうえで次の行動を決定した。浅倉はよく討論《デイスカツション》を持ちかけられた。そうしたときの利明の表情は輝いていた。浅倉は圧倒されながらも、利明に少しでも追いつこうと実験し、論文を読んだ。四年で卒業してからも就職せずにあと二年講座に残る気になったのも、利明と実験をすることが純粋に楽しかったからだ。
 自分が修士課程にまで残るとは浅倉自身想像していなかった。確かに中学や高校時代、理科系の授業が好きだったとはいえ、こうして白衣を着て夜遅くまでアイソトープなどを扱うことになるとは思いもしなかったのだ。
「浅倉って背がでかいよなあ」
 よく男子からそういわれた。小学五年生のころから急に伸びはじめ、あっという間にクラスで一番背が高くなっていた。当時は男子が奇妙なほど小さく見えた。
 中学校時代も半ばを過ぎるころ、ようやく男子の背が伸びてきてさすがに浅倉より身長のある同級生も増えてきたが、それでも依然として女子のなかでは飛び抜けて大きい部類に入っていた。その背の高さを買われて女子バレー部に入部した。部活動はそれなりに楽しく、練習もまじめにやった。他校との試合に勝ったときなどは本当に嬉しかった。
 だが、高校に入ってからは自分の背の高さが気になるようになった。
 身長は一七五程度で止まりはじめていたが、それでも周りと比ベて背の高いことに変わりはなかった。女子の友達からは単純に羨《うらや》ましがられたりすることもあったが、浅倉は笑顔を浮かべながらも内心ため息をついていたのだ。高校のころ、一年ほど同級生の男子と付き合ったことがあったが、自分のほうが背の高いことにいつもコンプレックスを感じていた。
 実際、服を買おうとしてもなかなかサイズが合うものがみつからなかった。靴もほとんどの店では置いていない。気に入った柄の服を見つけても諦めざるを得ないことがよくあった。結局、制服を着るとき以外はシャツにジーンズという格好になってしまうことが多かった。
 学校でもときどき男子から椰楡《やゆ》の対象となった。もっともそれは相手の男子としても軽い冗談のつもりだったのだろう。だがその程度であっても、幾重にも堆積すればそれなりに重みが出る。浅倉の通った高校では朝礼のとき身長順に並ぶが、女子のほうが男子より前に並ぶことになっていた。整列のときはいつも浅倉は心持ち前かがみになり、後ろの視線を気にしていたものだった。
 大学に入ってからは恋人を持ったことがなかった。それで寂しさを感じたことはなかったが、もしかしたら、自分の背の高さを知らず知らずのうちに意識し、そのために異性に対して消極的になってしまったからではないのか。ときどきそう自問することがあった。その事実を否定するために、毎日遅くまで実験をして気を紛らしてきたのではなかったか。
 タイマーの電子音がけたたましく室内に鳴り響き、浅倉は我にかえった。サンプルの沸騰時間が終わったのだ。ぼんやりしていた自分をたしなめる意味で軽く頭を拳で叩き、浅倉はサンプルを水浴から引き上げ氷の上に置いた。
 アクリルアミドゲルを電気泳動装置にセットする。サンプルが冷えたところで、浅倉はゲルの上部にそれらをのせはじめた。ゲルの上はあらかじめ櫛《くし》状のプラスチック板を挿しておいたので歯型のように切れ目がついている。この中にそれぞれのサンプル溶液をのせてゆくのである。ピペットマンを用い、浅倉は慎重にアプライを進めていった。
 すべてのサンプルをのせおわったところでパワーサブライのスイッチを入れる。ダイヤルを回し、20ミリアンペアで一定になるようにセットした。たちまち泳動槽から粉のような泡が立ちはじめる。
「これでよし、と」
 浅倉は大きく伸びをした。泳動が終わるまで三時間近くかかる。それまでは暇だった。
 時計を見ると十一時を回っていた。じっと研究室で文献でも読んでいたら寝てしまいそうだった。いったん家に帰って風呂にでも入ろう、そう浅倉は考え、周りの後片付けをした。
 アイソトープ実験棟を出て生体機能薬学講座の研究室に戻る。ロッカーからバッグを取り出した。部屋の電気を消し、廊下に出て部屋に鍵《かぎ》をかける。
 そろそろ学会の準備をしないといけないかな、と浅倉は思った。九月の上旬におこなわれる生化学会で浅倉は口頭発表することになっていた。学会にはほかに利明をはじめ職員や学生も三人ほど発表することになっていた。学会のための実験はほとんど終わっていたが、二、三、付け加えておくベき実験が残っていた。
 利明はいつまでこのEve1の解析を続けるのだろう。浅倉は訝《いぶか》った。学会のための実験をまとめたほうがいいのではないか。
 浅倉は廊下を歩いていった。廊下は電気が消えており、どことなく薄気味悪かった。ぬるりと生暖かい風が浅倉の頬を撫でてくる。内履きに使っているサンダルが擦れて音を立てる。その音はなぜか、ぬめるような空気にくるまれてほわり、ほわりと後方へ漂ってゆくような気がした。
 あの細胞はおかしい。
 その思いが浅倉の胸から離れなかった。その性状だけではない、細胞そのものがなにかを発散しているような気がする。
 近寄りたくないというのが本心だった。だがそんな子供じみたことを利明にいうわけにはいかない。黙って実験をしているが、ときどき異様な感覚に陥ることがあった。
 虫の知らせだ。浅倉は思った。
 昔からときどきカンが働くことがあった。あした腹痛を起こしそうだとか、バレーの試合に負けそうだとか、そんなたわいもないことではあったが、良く当たった。決まってうなじのあたりの毛が逆立つような気がするのだ。後頭部が痒いような痛いような複雑な感じでちりちりと疹《うず》くのだった。
 その感覚が、日増しに強くなってくる。
 あの細胞だと浅倉は直感していた。
 いやな感じだった。普段は気にならないのだが、こうして人気のない夜に実験をしていると不意に思い出されるのだ。研究室にいるときはラジカセをかけたりして気を紛らしているのだが、さすがにアイソトープ実験棟で音楽をかけるわけにはいかない。それで今日は敏感になっているのかもしれなかった。
 利明がはやくあの細胞から手を引いてくれればいい、そう願ったが、当分は叶えられそうになかった。利明のEve1に対する執着心は常軌を逸している。浅倉にもそれがわかった。Eve1が興味深い実験結果を出すようになってから利明は随分と雰囲気が明るくなり、最近は事故のあった直後に比べてもとの自分をかなり取り戻したように見える。だがそれはEve1の実験をしていないときだ。Eve1を扱いはじめるとたちまちのうちに憑《つ》かれたような目付きに変わってしまう。そのときの利明は全身からなにか異様な熱を発しているようで、浅倉は声をかけることすらできない。
 それに、Eve1のほうも利明を求めているような気がしてならなかつた。事実、浅倉が継代するより利明が継代したほうが増殖率がいいのだ。まるで……。
 浅倉は両手で肩を掻《か》き抱いた。
 まるで、細胞が喜んでいるようだ。
「ばかばかしい」
 浅倉は無理やりその考えを否定した。階段で一階に降りる。だが自然と足早になつてしまうのだった。なんでもないんだ、思い過ごしなんだ、そう繰り返しながらも、浅倉ははやく家に帰ろうと階段を駆け降りていた。
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