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パラサイト・イブ3-10

时间: 2019-07-27    进入日语论坛
核心提示:       10「だからその腎移植を受けた女性に会いたいといってるんです。すぐにでも」 利明は研究室から市立中央病院へ
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「だからその腎移植を受けた女性に会いたいといってるんです。すぐにでも」
 利明は研究室から市立中央病院へ電話をかけていた。Eve1は必ずこの病院へ現れるはずだ。その前にレシピエントとなった女性を護らなければならない。
「ですから申し訳ありませんが、ご遺族のかたは患者さんとはお会いできないことになっているんですよ」
 だが病院の受付はその一点張りだった。利明はもどかしさに声を張り上げた。
「そんなことをいっている場合じゃないんだ。今すぐその人をどこか安全な所に避難させてやらないと大変なことになる。一刻を争うんです」
「失礼ですが、あなた、いったい何をいっているんです?」急に相手は口調を変えた。
「その患者さんが危ないといっているんだ、わからないのか」利明は怒りを覚えた。
「いたずら電話なら止《や》めてもらいたいんですがねえ」
「ばかな。さっきもいったでしょう。私はドナーの夫で、名前は……」
「何が目的なのか知りませんが、当病院の患者に不安を与えるようなことはしないでもらいたいですなあ。うちは警備もしっかりしているし、患者さんの容体だって定期的にチェックしているんです。あまりしつこいようだと警察に通報しますよ」
「くそっ」
 利明は受話器を叩きつけた。
 話にならない。だがこのまま放っておくことはできなかった。
 利明は開《はだ》けたシャツをズボンに押し込み、部屋を出た。暗い廊下を一気に駆け抜ける。
 エレベーターが幸い五階に止まっていた。扉を開け中に乗り込む。一階のボタンを叩くようにして押した。のろのろと下降を始める。あまりの遅さに利明は悪態をついた。
 Eve1はいまどこまで進んだろうか。
 それだけが気になっていた。研究室の流しのひとつがEve1の肉片で汚れていた。利明が排水口に指を突っ込むと、中に小さな肉のかけらが付着しているのがわかった。Eve1は下水へ逃げたのだ。
 Eve1は形態を自在に変えることができる。狭い地下道の中をどろどろの不定形となって這い回ることなど簡単だろう。その肉塊の中心部にはしっかりと受精卵が保管されているはずだ。
 Eve1がどこをどう通っているのか見当もつかなかった。街を縦横に走る下水を逐一調ベることは不可能だ。ただ、病院へ現れることだけは間違いない。そこでEve1を倒すしか方法はなかった。
 がくんと振動してエレベーターが止まった。扉が開くと同時に外へ出る。真っ暗なロビーを抜け、玄関先に停めてある車へと走った。鍵は中についたままだ。乗り込んでエンジンをかけると、アクセルを踏み込み、勢いよく発進する。
 ここから病院まで、十五分程度のはずだった。それで間に合うだろうか。利明にも自信はなかった。しかし行くしかない。せめてレシピエントの女性だけでも護らなければいけない。
 だが、病院へ着いたとしても、いったいどうやって聖美の腎を移植した患者を探せばいいのか。市立中央病院はこの地域でも有数の腎移植病院だ。移植患者は何人もいるだろう。その中からどうやって目的の患者を見つけるというのか。受付や看護婦に訊いてもだめだ。これまでのことを話しても信じてもらえないだろう。ならば、何度か手紙をくれた移植コーディネーターの織田という女性を探すか。あるいは移植を担当した医師に話すか。利明は首を振った。どちらにしても、あまり望みはありそうにない。病院はドナーの遺族とレシピエントとの接触を極力避けようとしているのだ。
 ……なんとかなる。利明はそう信じた。いや、なんとかしなくてはならない。これ以上犠牲者を出すわけにはいかない。
 利明はさらにアクセルを踏んだ。滑り落ちるようにして下り坂のカーブを曲がった。
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