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パラサイト・イブ3-24

时间: 2019-07-27    进入日语论坛
核心提示:       24 利明の体が床に落ちた。 すぐその後に安斉の体が落ちてきた。口から血を流し呻いている。 もはや体を圧し
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 利明の体が床に落ちた。
 すぐその後に安斉の体が落ちてきた。口から血を流し呻いている。
 もはや体を圧していた力は消え失せていた。
 なんだ? 利明はわけがわからなくなった。なぜ止《や》めたのだ?
 利明は霞んだ目を見開き顔を上げた。そして|それ《、、》を見て唖然《あぜん》とした。
 それが苦しんでいる。
 苦悶《くもん》の表情を浮かべながらしきりに顔をかきむしっていた。ぼろぼろと肉がはがれ落ちている。利明は目を見張った。それの体型が変化を始めていた。全身がざわざわと波立ち細かく痙攣している。腰のくびれがなくなり胸が堅く厚く変形してゆく。肩幅が広く腕が太くなってゆく。顔の骨格が変形してゆく。それは悲鳴を上げていた。だがその声も急速に変わってゆく。
 これは……。これは一体どういうことなのだ?
 女性であるはずの生命体から「男」が姿を現そうとしていた。
 その股間《こかん》から何かが突出を始めた。指先ほどの大きさだったそれは次第に太く猛《たけだけ》々しく聳《そび》えていった。びくん、びくん、と脈を打つ。腰のまわりも柔らかい線は消え張りつめたような筋肉で覆われていった。腹筋が隆起し肩も盛り上がり首は太くそして貌《かお》は触ると切れそうなほど鋭く引き締まったものへと変化してゆく。鬢《びん》が獅子のように伸び、さらには顎鬢《あごひげ》、頬髯《ほおひげ》が現れ顔を覆う。背中が鋼の丘のように迫《せ》り上がりそれは両手を床につき四つん這いの姿勢をとった。肉体の全てが力を具現してゆく。喧《む》せるような怒気がその体から湧き起こった。それは全身の熱を発散させるかのようにぶるぶると体を震わせ床を激しく叩いた。
 そしてそれは吼《ほ》えた。
 破裂した利明の臓腑をその轟咆が直撃した。全身がばらばらになりそうだった。ばりんと大きな音がして部屋の中が暗闇となった。電灯が切れたのだ。どこかで金属製のものが倒れる音がする。
 喉の奥から血の塊が込み上げてきて利明は吐いた。皮膚に亀裂が走りリンパ液が滲み出してくる。頭の中が燃えそうなほど熱い。
 瞳の奥で何かが音を立てて切れた。その瞬間から利明は赤と黒のドットしか認識できなくなっていた。目の前で砂嵐が起こっているかのように無数の点が乱れ飛んでいる。あの生命体の唸り声が聞こえてきたがなにが起こっているのかわからなかった。コンクリートが弾けるような音が断続的に響き、利明の体の上にもばらばらと壁の破片が降ってきた。
 一体奴はどうなったのだ?
 どこからか人の悲鳴が上がった。吉住だ。なにかがぶつかる音が響く。だが利明は倒れたままなにもすることができなかった。指を動かすことすらできない。
 利明の体が宙に浮いた。気がつくとどこかに体がぶつかっていた。次の瞬間には体の別の部分に衝撃があった。あるときは腰、あるときは肩、あるときは頭、あるときは胸、それが何度も何度も繰り返された。次第に利明は痛みの感覚がなくなっていった。自分が四方の壁に叩きつけられているらしいということは想像できたが、それを回避しようという気も失いかけていた。ただあの生命体がなぜ男になったのか、それを考えていた。ミトコンドリアは雌だったはずだ。なぜ男性に変化したのか。それはどういう意味なのか。さらなる進化なのか? それとも……。
<………>
 利明はそれに気づいた。
 まさか。
 だがそれ以外考えられなかった。利明自身その意味するところを正確に理解できたわけではなかった。しかしその直感が煌《きら》めきにも似て利明の全身に広がってゆくのを感じた。
 その利明の考えに応えるかのように、突如として生命体は苦悶の咆哮《ほうこう》を上げた。
 大音響が轟き何かが爆発した。利明は床に落ちた。警報がけたたましく鳴り響く。
 それ以上の音量で生命体の叫びが起こった。声が変化してゆく。利明の思ったとおりだった。それは再び女の声へと戻ろうとしていた。
 肉の蠢く音がベルの切れ間に聞こえてくる。生命体が激しく代謝と産生を繰り返しているのだ。ときどき、どくん、と脈が打ち鳴らされる。男の咆哮を上から押し潰すように女の声が広がってゆく。それに対抗するのか、スロットルが噴射されるように男の声が女の声を切り裂いてゆく。生命体の中で雌と牡が闘っていた。互いがひとつの肉塊を支配しようと取り合いを続けている。雌の表現型が現れたかと思うと牡がその上に自らの姿を形成させてゆく。雌が体を穿《うが》ち子宮をつくればそれを埋めるようにして牡が子宮の中から陰茎を屹立させてゆく。そして雌がその陰部をねじ伏せるようにそこへ乳房を隆起させてゆく。利明の直感があたっていた。眼で見ることはできなかったが、生命体がどろどろの塊となって縺《もつ》れてゆく様を感じることができた。
 利明の心に何者かの感情が飛び込んできた。それは電話が偶然にも混線したように、利明の中で切れぎれにざらついた音を放った。ミトコンドリアだ、利明はすぐさま悟った。Eve1に寄生していたミトコンドリアだ。床の上でじくじくと溶け壊死を迎えようとしていたそれは、突然の娘の変化に驚愕していた。なにが起こったのかわからないようだった。ミトコンドリアは必死になって宿主細胞にシグナルを送り再び増殖しようともがいていた。娘の異変を収拾しようと焦っていた。だが宿主細胞はすでに引き返せないところまでダメージを受けていた。ミトコンドリアの放つ刺激に応えることができなかった。ミトコンドリアの悲痛な叫び声が利明の体に響いた。こんなはずではない、こんなはずではないと半狂乱になりながら訴えていた。
 利明の頭の中は閃光で満たされていた。いままで心の隅に引っ掛かりながらどうしても手繰《たぐ》りよせることができなかったものが、体内で煌々《こうこう》と光を放ちその姿を現わす。……やはりそうだったのだ。Eve1に寄生していたミトコンドリアはひとつ重要なことを見落としていた。自分が雌であったためにそれを考慮することができなかったのだ。新たな生命体を造り上げるには、確かに精子が必要だったのだろう。だがEve1の中のミトコンドリアは、男の遺伝子を単に生殖の道具としてしか考えていなかった。〈娘〉の中には、自分だけでなく、牡のミトコンドリアも混入してくるということに気づかなかったのだ。
 Eve1に巣喰うミトコンドリアの断末魔の絶叫が鳴り渡った。そしてそれは長く長く尾を引きながら消えていった。利明はミトコンドリアの死を体で感じていた。外膜、内膜が破れ、ミトコンドリアの内部からDNAが流出してゆく。細胞質内に充満した活性酸素がそれをずたずたに切り裂いてゆく。ミトコンドリアが産生した電位も拡散し消失してゆく。刺激を受けた受容体はばらばらに崩れ、なんら意味を持たないペプチドとなって活性を失ってゆく。意識は止まり、細胞は破裂し、ただの脂質とアミノ酸と糖へと還ってゆく。もはやそれは生命体ではなかった。変性し腐敗してゆくだけの有機物の塊でしかなかった。
 地鳴りのような怒号が突き抜けた。Eve1の子が牡と雌の入り混じった声で叫んでいた。
 天井が崩れ始めた。生命体が真の力を噴出させはじめたのだ。がらがらと岩のようなものが利明の体を叩いた。逃げなくては、そう思った。しかし体が動かない。ベルが鳴り続けている。
 どこからか複数の人の声が聞こえてきた。足音が近づいてくる。短い悲鳴や驚きの声がどこかで上がった。顔に光が当てられるのが感覚でわかった。
 助けだ。
 助けがきたのだ。
 利明は歓喜の声を上げた。だがそれは音にならなかった。少しでも動こう、と体に力を込めるがうまくいかない。
 そのとき津波のような熱気が発生した。
 絶叫が上がった。ばたばたと走り回る音がする。空気が燃えるように熱い。ごうごうと渦を巻いている。
 どうしたのだ? 利明は狼狽した。救助に来た人たちはどうなってしまったのだ?
 マグマのような爆風が利明の体を衝いた。なにか重いものが利明の下半身に当たる。その瞬間から足の感覚がなくなってしまった。吹き飛ばされたのかもしれない。どこか遠くで男の悲鳴。がする。
「だめだ!」
「なんだこれは!」
「まだ生きているのに!」
 そんな声が切れぎれに聞こえ、それにかぶさるようにして肉のちぎれる音、湿った爆発音、そして絶叫が響いた。奴だ、利明は思った。奴が自分の肉体を制御しようともがくうちにその力を辺りにぶちまけ室内を破壊しているのだ。
 だめだ。利明は心の中で呻いた。このままでは救助の者たちが少女や吉住たちを部屋の中から助け出すことはできない。奴を鎮めなければならない。これ以上犠牲者を出すわけにはいかない。利明は自分の体の奥底から熱いものが湧き起こってくるのを感じた。奴を止めるんだ。奴を殺さなければならない。この自分が。自分が!
<やめろ!>
 利明は有りったけの激情を生命体にぶつけた。
 生命体が一瞬ひるむのがわかった。利明はさらに心の中で叫んだ。
<さあ、こっちへ来い! 俺を見ろ、俺だけを見ろ! おまえの父親だぞ! こっちへ来い!>
 生命体が唸り声を上げた。利明に注意を向けている。熱風が弱まりつっあった。もうすこしだ。
〈おまえのことはよくわかっている。どうしておまえがそうなってしまったかもわかっている。さあ、俺のところへ来い。抱いてやる、おまえを抱いてやる〉
 生命体は明らかに動揺していた。動きが鈍ってきている。きょろきょろとあたりを窺っているようだ。母であるミトコンドリアを探しているのだろう。だがEve1はすでに死滅してしまっている。生命体はそれに気づき初めて不安げな声を出した。利明は畳み込むように呼びかけた。
〈いまおまえは体ががばらばらになりそうなんだろう。苦しいんだな。そうだろう。俺はおまえのことをわかっているんだ。おまえの父親なんだ。ここへ来い。俺が抱いてやる。その苦しみも俺が共有してやる。おまえは確かに自分の子孫を自分で作り出すことができるかもしれない。だがが親はどうだ。おまえは親をつくることはできないだろう。母親も死んでしまったぞ。もうおまえの親は俺しかいない。俺におまえの苦しみをわけてくれ。俺のことだけを考えろ。こっちだ。俺はここにいる。さあ、こっちだ!〉
 熱風が凪《な》いだ。
 静寂が降りた。ベルの音も消えた。鳴っているのかもしれないが利明の耳に聞こえなかった。轟音を立てて崩れていたはずの天井もその動きを止めた。落下しているコンクリートの破片も空中で停止してしまったようだった。無音だった。無音という音すら聞こえないほどの静けさだった。
 その中で、ずるり、とそれが動く音がした。
 ずるり、
 ずるり、とそれはゆっくり利明のほうへ向かってきた。そうだ、それでいい、利明は励ましの言葉をかけながら心の中で両腕を広げそれを迎え入れた。
 利明の腹部にそれが触れた。暖かくどろりとしていた。それは利明の胴体を包み込んできた。利明は笑みを浮かベてそれに優しく声をかけた。
〈さあ、俺の体におまえの痛みを分けてくれ。融合するんだ。俺の細胞と融合するんだ。一緒になろう。そうすればおまえもこわくないだろう。不安だったんだな。自分でない自分がいることが不安だったんだな。せっかく俺からもらった命がもうひとりの自分に捕《と》られてしまうと思ったんだな。おまえのことは俺がわかっている。俺と一緒になれ。俺の体の中に入って来い。父親と一緒になるんだ。さあ、どうした。俺の体に入ってくれ〉
 そして、利明は自分の体が熔岩のように溶けてゆくのを感じた。
 それの細胞が皮膚の隙間を抜け体内に入ってきた。細胞と細胞が擦れ、燃えるように熱い。方向感覚が急速になくなってゆく。自分の体がどうなっているのかわからなくなっていた。それの細胞が溶けこんでくる。それの細胞膜が利明の細胞と結合してくるのがわかる。それのミトコンドリアが利明のミトコンドリアとひとつになってゆくのがわかる。それのミトコンドリアDNAが利明のミトコンドリアDNAと混ざりあう。それの力は瞬く間に弱まっていった。
 それは動いた。なんとか生き延びようと動いていた。摩擦が大きくなる。利明はいま自分がどうなっているのかわからなかった。だがあまりにも摩擦が大きくなる。利明は自分が燃えていることに気づいた。それと一緒に翔んでいるのではないかと思った。それが最後の力を放出し、次々と瞬間移動を繰り返し、空気の流動で発熱しているのだろう。それは利明にとって不思議な感覚だった。これまで考えたこともないような刺激であり運動だった。おそらくこれまで地球上のどんな生命体も感じたことのないものだろう。進化するとはこういうことなのかと利明は思った。全く次元の違う世界を感じ、それを享受する。その喜びと苦しみは進化していない生物には決して理解することができない。またその感覚の存在すらも知らないのだろう。やがてヒトもそこまで進化することができるのだろうか。そのときはまだミトコンドリアと共生しているだろうか。おそらく共生しているのだろう。進化とは自らと全く異なるものと共に暮らす過程で起こるものだ。相手が生命体のときもあれば環境のときもあるだろう。その場所が地球なのか、別の惑星なのか、それとも細胞の中であるのか、それはわからない。だが新しい共生関係を作り上げることができたとき、ヒトはさらに一歩進んだ世界を手に入れることができるのだろう。
 それはどろどろと利明の中に入ってくる。奇妙なほど音が聞こえなかった。静寂の中で利明はそれとともに飛び回っていた。それの力が消えてゆく。小さく小さくなってかき消えてゆく。これで終わりだ、利明はそう思った。これで悪夢は終わりだ。
 聖美、これでおまえはもとの聖美に戻るんだ。
 俺の愛していた聖美に還るんだ。
 
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