このあいだのバーゲン、どうしてました? シーズンのはじめにうんと悩んでやっぱりやめたジャケットやパンツが、三割引の値札をつけて私を待っていてくれたいとおしさ、嬉しさ。
「よし、よし、やっぱり私に着てもらいたかったのネ。私のことを好きなのネ」
と撫《な》でながら買っていく私。
が、最近の夏のバーゲンのことである。どうしようかナと迷いに迷ったけれど値段が高くてやめたスーツが、なんと半額になっているではないか。もちろん私は買った。試着もせずにだ。だってあの時ちゃんと着て鏡の前にずうっと立ってたんだからね。ところがこんなことがあってよいものであろうか。最初に着てみてやめてから二ヶ月の間に、私はかなりお肉をつけていたようだ。スカートがきちきちで入らなくなってしまったのである。
値段が落ちていった間に、私の体重は上昇してしまった悲しい例である。
さて皆さんもご存知だと思うが、この世には究極のバーゲンというのが幾つか存在している。それは「関係者以外お断わり」という、コネコネのバーゲンだ。コネコネバーゲンといっても、デパートやファッションビルなんかが出す、
「このハガキをご持参の方」
なんていう程度のものじゃない。本当に限られた人だけの秘密バーゲン。
商社に勤めている友人が時々誘ってくれたのが、某イタリアンブランドのバーゲンである。この商社が日本での代理店なので、その安さといったらない。が、社員と家族に限られるということで、一般の人には公開していないそうだ。もちろん友人も家族ということで入場出来るということであるが、その混みようときたらラッシュアワーなみということでやめてしまった。
これよりもっとすごいのが、マスコミの人を対象にした、あるブランドの特別バーゲンですね。これは破格値ということで、しかもここのお洋服はいつも私が着てるものである。
「ハヤシさんも少し我慢すれば、シーズンをはずして安くなるのに」
と女性編集者に言われ、私は歯ぎしりしたいほど口惜しかった。このバーゲンは女性編集者やスタイリストの人たちがごそっと押しかけるのであるが、中には芸能人も何人かやってくるらしい。
「○○○○なんかダンボール三箱ぐらい買っていきますけど、ああいうのってみっともないですね」
と何人かから聞いた。○○○○さんというのは、長らくファッションリーダーとして君臨している女優さんである。が、私は○○○○さんにすっかり同情してしまった。ちょっとした私服までスタイリストをつけ、どこからか洋服を借りてくる昨今のタレントさんと違い、彼女はすべて自前なのであろう。スポンサーの愛人でもいない限り、服は自分で買うしかない。だったらバーゲンに来るのはあたり前じゃないか。そうしていろいろ組み合わせて着てみせてくれて、私たちを楽しませてくれるんだ。いったい何が悪い。
「だけどイメージっていうものがありますよ」
と編集者たちは言うのである。
「ハヤシさんも行くと、あれこれ言われるかもしれない。だから私が買ってきてあげますよ」
ということでお願いしたら、ジャケットにスカート、ブラウスなど買ってきてくれて、しめて八万円ちょっとであった。ちなみにここのブランドはジャケットだけで十数万円する。ここで満足すればいいのに、意地の悪い私はちょっと嫌味《いやみ》を言ってみたくなるんですね。そのジャケットを着て、さっそくいきつけの店に行ってみる。
「あら、ハヤシさん、それ、うちのですよね」
「そお、幾らで買ったと思う」
胸を張る。
「二万円ちょっとよ、バーゲンで買ってきてくれたのよ。ねえ、ねえ、どうしてこんなに値段が違うのかしら」
「ハヤシさん、そんなこと言わないでくださいよ」
悲しそうに顔を曇らせる店長。いつもお世話になっているのに、私って何てイヤな女なんでしょう。
さて今年のバーゲンであるが、カシミアの黒のタートルネック、茶色のパンツ(黒を既に購入)、一泊用のバッグ(アンティック風)といったところであろうか。年々私は賢くつましくなり、バーゲンといっても無茶な買い物をしない。昔はそれこそ頭と体が浮き上がり大量に仕入れてきた。サイズが合わないものは「人にあげればいい」、とんでもなく派手なものは「そのうちパーティーで着ればいい」と後先考えなかったものだ。典型的な�安物買いの銭失い�だったわけであるが、なんだかあの頃がやたら懐かしくなる。早起きして友人と並んだっけ。年に二回のバーゲンは、その一年の私のエネルギーの量を確かめる時でもあった。