先日、うちでオープンハウスパーティをした。なんと百三十人を超える人々が集まってくれたのである。
と言うと、なんて広い家に住んでいるのかと驚かれそうであるが、タネ明かしをするとパティオを使ったのと、四時から九時までの好きな時間にいらしてくださいと手紙を出しておいたのだ。
ご存知のように『美女入門』が売れているので、その印税の何割かをパーティに使うことにした。ミエっ張りの私は、こういう時パーッとやります。イタリア料理店からケータリング料理を頼み、黒服のサービスマンもお願いして、シャンパンを運んでもらった。
「個人のうちで、ここまでやるなんてスゴイ」
とみんな喜んでくれてよかった。実は私、友人から教訓を学んでいたのである。彼女はものすごい金持ちなのであるが、関西の人だからケチだ。最近、女ひとりが住む、そう大きくはないが、贅沢《ぜいたく》な家を建てた。そのオープニングパーティに、やはり数十人の人々を招いたのであるが、行ってみてびっくり。お手製の煮物に、どこかで買ってきたお赤飯のお握り、あとはピーナツみたいなものしかないではないか。
「みんなお腹が空《す》いたって言ってたわよ」
私が文句を言ったところ、
「だってみんな、食べて来ると思ったんだもの」
とケロリとしたもんだ。テツオは言う。
「人それぞれイメージってものがあるんだから、あの人はあの人でいいんだよ。誰も悪く思わないよ。だけどあんたは、頑張って派手にしてもらわなきゃね」
そんなわけで頑張ったわけだ。
若い頃、私は結婚について夢を持っていた。お金持ちの奥さんになって、しょっちゅうおうちで素敵なパーティを開く。そう、「家庭画報」のグラビアの世界よ。夫の都合で外国暮らしなんていうのも悪くない。外国人の夫妻をお招きしてにこやかに喋《しやべ》る私……。
そう、その日を夢見て買い物した時期もあったわ。海外旅行で買ったリネンの数々、オーガンジーの美しいテーブルクロス。デンマークへ行った時は、ロイヤルコペンハーゲンの食器を、ドイツではローゼンタールの食器を買った。もちろんディナーのフルセットである。
が、ハイミス時代が長かったもんで、食器はひとつ欠け、二つ欠けしていった。そしてやっと結婚出来たと思ったら、相手は普通のサラリーマンである。住むところも引っ越しがめんどくさかったので、今まで住んでいた普通の狭いマンションだ。
ディナーはどうなった。外国人の夫妻はどうなった……と私は悲しくなった。が、ある日待ちに待った日がやってきた。夫の仕事の関係のアメリカ人が、一家で日本にバカンスに来ているという。
「やっぱり、うちに招かなきゃまずいだろうなあ。アメリカに僕が行った時は、彼のうちでご馳走《ちそう》になったんだから」
「そうよ、そうよ」
私は大喜びである。若い時に夢見てた外国人付きディナーの女主人になるのね。ようし、今まで集めていた食器も大放出しよう。料理はたいしたことしなくてもいいと夫は言うし、アメリカ人というのはそもそも食べることに関心がない。何とかやれるでしょう……。
が、私は肝心のことを忘れていた。私って英語がまるで駄目なんです……。買い物ぐらいはどうにかなるけど、ディナーの間中どうすりゃいいんだ。私は外国経験の長い友人に相談した。
「いいわよー、子どもと喋ってりゃいいの。そうして時間を稼いどけば」
彼女は励ましてくれた。
「それからさ、凝った料理なんかいいのよ。えっ、十三歳と十五歳の子どもが来るの。じゃ、ケンタッキー・フライド・チキンを買って並べときなさいよ」
そしてパーティの日がやってきた。私は今までお招《よ》ばれしてきたことを思い出し、あれこれ手順を考えた。ヨーロッパやアメリカの人は、どんなに狭いところだろうと食前酒を飲むところ、食事をするところを必ず分けてメリハリをつける。これは全く難しいことじゃない。アペリティフは居間のソファで、食べる時は四メートル移動してもらってダイニングテーブルに来てもらえばいいのだ。
夫の会社の人が二人来たが、みんな英語がうまい。夫も交えて、みんな楽しそうにジョークをとばし(てるらしい)笑っている。私はその間、せっせと料理を運びお酒を酌《つ》いだ。案の定、二人のお子さまはお鮨《すし》やスモークサーモンといったものには手を出さず、ケンタッキー・フライド・チキンを齧《かじ》っていた。なんか「家庭画報」の世界とは違うような気がしたけれど、あれが私のホステスデビューだったわけね。
さてオープニングパーティのことであるが、百三十人を案内し、うちの中を見せ、料理を勧めたりするのはかなり疲れた。
「ハヤシさん、目の下にクマが出来てますよ」
と注意されたぐらいである。パーティのホステスは訓練よね、とつくづく思う。私は今まであまりにも狭く汚いところに住んでいたので、人寄せする機会がなかった。最初は三、四人で週末パーティをする。ここでレッスンを積むべきだったのに、いきなり百三十人だもんね。皆さん、多々不行き届きがあったと思うけど許してくださいね。