そんなわけで、オートクチュールのイブニングドレスをつくった私である。
屈辱的な採寸を経て、私は決心した。
「よし、ラストスパートをかけちゃる」
なぜか、博多弁になる。
インテリア特集の時、私はこう言った。家づくりは、今までのセンスと美意識の集大成である。そして、今わかった。イブニングドレスこそ、女の美の集大成なのである。
美しくてプロポーションがいいのはもちろん有利であるが、それだけでもイブニングは似合わない。若くても場数を踏んでいるといおうか、貫禄《かんろく》を持っているか、いないかが、問題になる。つまり、中身を持っているかどうかということである。
よく、ファッションに携わる人が、
「洋服は結局、中身です」
みないなことを言うが、何のことかよくわからないでしょ。私にだって、よくわからん。が、イブニングドレスの場合、中身ということがどういうことか、ようくわかるはず。どんな美少女でも、昨日今日デビューしたばかりのアイドルでは、やはり着こなせない。ただの長めのワンピースになってしまう。ちゃんとしたキャリアを積んだ女優さんが着るからこそ、�おおっ�という感じになるのである。
また、中身だけではない。イブニングドレスは上半身の肌がむき出しになるため、多くのチェックが入る。背中の肉がたるんでないか、シミはないか。うなじは綺麗《きれい》か、むだ毛はないか……等々、普段からちゃんとお手入れしているかどうかで、差が出てくるのだ。
私は商売柄、肘《ひじ》の黒ずみがずうっと気になっている。原稿を書いている最中、無意識に肘をつくらしく、ここに角質がたまっていたのだ。いろんな化粧品をつけてみたが、いっこうによくならない。
先日某女性誌(「アンアン」ではない)を見ていたら、
「キワモノ化粧品総点検」
という記事があった。通販で買える怪しげなものをチェックしたというものだ。その中で一回使っただけで肌が白くなるパック、というものがあった。
「こんなもの、効果があるはずないと思っていたら、ものすごい。いっぺんで白くなった」
と書いてあるではないか。が、そのパック、まるで芸能人と密会するシロウト女性のようにモザイクがかかっている。私はさっそくこの編集部に電話をかけた。幸いなことに、私はその女性誌にコラムを持っているのである。担当者を呼びだして聞いた。
「申し訳ないけど、あのモザイクのかかっているパックの名前、教えてくれないかしら」
「いいですよ。それよりも試供品の小さいやつをいっぱいもらったから、それを送ります」
試しに使ったところ、手の甲の色がはっきり変わった。土曜日に友人を呼びだし、彼女にも使わせたところ、ゴルフ灼《や》けした手首がいっぺんに変わったのだ。これには彼女も驚き、さっそくその場で本社に電話し、二個ずつ送ってもらうことにした。
私は毎日このパックを、肘と顔に使っている。使った直後は、確かに白くなる。が、三時間たつと元に戻るというのは、どういう節理によるものだろうか。
「白い粉が皮膚に入って、白く見えるんじゃないかしら」
と友人は推理する。が、私はめげず、毎日使っているのである。
ダイエットも、もちろん頑張っている。こういう風に、ニンジンがぶら下がっている時の私の頑張りようといったらすごい。自分でも根性あると思う。
夕飯は抜いて、甘いものとアルコールもやめ、一週間で二・五キロ痩《や》せたぞ。一週間ぶりにテツオに会ったら、
「顔の形が違ってる」
と驚いていたっけ。ハハハ、私を甘く見てはいけない。私は持続性はないが、集中力というのはあるんだから。
そして仮縫いの日、ドレスが掛かっていた。美しい赤いサテンのドレス。でも……、何か違うわ。パリ・コレでモデルさんが着ていたのと、本当に同じものかしらん。私は慌てる。が、すぐに知った。
そうよねえ、プロポーションが違うと、これだけ別のものになってしまうのねえ……。そして仮縫いが始まった。私はダイエットも頑張ったが、下着も頑張った。昔買った補整下着を身につけ、さらにその上にウエストニッパーをきりりと締めていたのである。
「ハヤシさん……」
ピンをうっていた男性が顔を上げた。このあいだ、
「このくらいにしときますか──」
と、メジャーを締めた人である。
「ハヤシさん、ウエストが五センチ少なくなってますよ」
見よ、この努力。たった一週間で五センチじゃ。人間成せばなる。努力は必ず報われるのだ。森英恵先生も、
「ハヤシさん、頑張られたわね。えらいわ」
と誉めてくださった。世界のモリ・ハナエにウエストの心配までさせて、私はなんという女だろう。
家に帰って夫に自慢したところ、
「それだけ伸び縮みする、だぶだぶの腹だってことじゃねえか」
だと。よし、このドレス着て、パリで恋人見つけたる。中村|江里子《えりこ》さんの彼みたいなのじゃ。