求む! なお美ボディ
ある女性誌のインタビューを受けた。
「うちの雑誌で、『年齢と共にますます美しくなった人』というので特集をするんです。アンケートをしたら、桃井かおりさん、風吹ジュンさん、黒木瞳さんなんかと一緒に、ハヤシさんの名前も挙がりましたんで……」
私はもう嬉《うれ》しくって涙が出そう。そう、やっと世間の人たちも、わかってくれたのね。ここまで来るのに、長くつらい道のりだったわ、くっくっ……(涙)。
やがて調子に乗った私は、ぺらぺら喋り出す。人のワルクチもいっぱいよ。
「ほら、○○さんっているじゃないですか。あの人がデビューした時、女の文化人でやっと美人が現れた。それまでの女は顔が邪悪な人ばっかりだったなんて、これ、私に対するあてつけだと思うけどさ、まあ彼女、ちやほやされたわけ。ところが今じゃどう、たまにテレビに出てくると、完璧《かんぺき》にオバさんなのよ。もう着てるものもひどいのよ」
「じゃ、ハヤシさんはその時�勝った�と思うわけですね」
と意地悪く突っ込む女性編集者。やだー、思ってもそんなこと言えないわ。
「いえ、そんなことありませんけどね、ちょっと驚きますね」
キレイごと言う私の傍らで、カメラマンがパシャパシャとシャッターを切っていく。そしてポラが並べられた。
何よ、これ。顔がむくんじゃって、まるっきりオバさん顔じゃないか。今年買ったセリーヌのスカートはいてるんだけれども、チェックが裏目に出てすっかり太って見える。
先週、温泉へ遊びに行き、それこそ飲んじゃ食べ、食べちゃ飲むの生活をしてきた。そのタタリはすっかり顎《あご》の線となって現れている。何なのよ、これ。こんな写真を出されたヒにゃ、
「女はやっぱり努力しなきゃいけません」
なんてほざいている私は、世間からバカと言われることであろう。私はすっかり落ち込んでしまった。
どうして私は、そんなにすぐデブになるんだろう。どうしてこんなに根性がないんだろうか……。読者の皆さんも、いつも太った、痩《や》せた、なんていう話ばっかり聞いて飽きちゃったよね。
が、私は言いたい。女の精神性と肥満とは固く結ばれているのである。このあいだ男の人とデイトをした。常日頃から憎からず思っている人である。食事の後、バーへ行きます。横から男の人に見られます。この位置というのは、太っているとすぐわかる。お腹や背中の肉のつき具合、顎の弛《たる》みも一目|瞭然《りようぜん》。このところ太っている私は、男の人の視線を受けとめることが出来ず、途中から気もそぞろになってきた。もう一軒行こうと彼は誘ってくれたけども、そそくさ帰ってきた。あのバーの止まり木というのは、恋の温床である。あそこでたくさんの男と女の素敵な関係が生まれるのに、私はもうダメよね……。
このあいだは、女友だちから電話がかかってきた。
「○○さんのスケジュールが空いたって。再来週でどうかしら」
○○さんというのは、私がずうっと憧《あこが》れているハンサムな男性だ。久しぶりに会おうかということになったのだ。私の女友だちが偶然にも、彼と一緒に仕事をしていて、まずは三人で食事という話が盛り上がったのである。
「それがダメなのよ」
私はほとんど涙ぐんでいる。
「今、ダイエットしているから、お願いだからもうちょっと待ってちょうだい」
もう本当につらい。おとといのこと、男友だちとお酒を飲んでいたら、次の店へ行こうということになった。そこにはなんと川島なお美さんがワインを飲んでいらした。私の友人と待ち合わせをしていたのだ。
信じられないぐらいきゃしゃで、細っこいなお美さん。初冬だというのに肩むき出しでミニスカートをはいておられた。私の男友だちは彼女の隣りに座り、隙を見て肩に時々触れたりする。わかるわ、その気持ち。肩のサイズも、首の細さも男の人の腕を待っているようなはかなさと美しさ。女はやっぱりこうでなきゃね。私はなお美さんに尋ねた。
「このあいだお書きになった『フルボディ』っていう本の中で、ワインを飲んだから醜くなったって言われたくない。ワインを飲む日は、朝からジムに通って何にも食べない、って書いてあったけど本当?」
私の不躾《ぶしつけ》な質問にも、なお美さんは快く答えてくださった。
「ええ、そうよ。今日初めて口にしたのはこのワインよ」
夜の十時のことである。私はその後、運ばれてきたチーズをがつがつ食べ、ワインは人の残したものまで飲み、その後はラーメンまで食べた。私の顔はますますむくみ、目も細くなった。こうなってくると私の精神状態は最悪である。男の人は、ダイエットに励む女をバカにするが、あたり前じゃないか。太ったままじゃ恋する気も失せて、毎日がちっとも楽しくない。ああ、なお美さんのボディを三日間だけおくれ。そしたらいろんないいことが起こることを知って、私の人生も変わるかも。