ブスは伝染《うつ》るけど美人も伝染る。だから出来るだけ美人といるように、と言ったのはテツオである。素直な私はテツオの教えを守り、美人の友人とばかりいるようにした。
けれどもこれは結構つらいことであった。なぜなら引き立て役となり、完璧に男の人から無視される。
私はよおくわかったのであるが、美人というのはたいてい屈託がない。はつらつとしている。何をしてもサマになってカッコいいのだ。たとえば外国人の男の人たちを交えてお食事をしたとする。私の友人の美女は、冬でもノースリーブのドレスを着ている。ジャケットを着て体型を隠そうとする私とは対照的だ。そしてちょっと酔っぱらってだんだん可愛くなる。
「こんな大きさなのよ」
とか言って、手を丸くして大きく上げる。腋《わき》の下が丸見えになるけど、もちろん綺麗《きれい》になっていてとってもエロティック。男の人たちの視線はすべて彼女に集まる。そして別れぎわに「キスして」という風に、彼女はほっぺたを男の人の方に向ける。外国人たちはもちろん大喜びで彼女の頬にキスする。握手もやっとの私とは全然違うわよね。
テツオは最近こんなことを言う。
「あんたみたいなトラウマの強い人は、やっぱり美人とつき合わない方がいいんじゃないの」
だって。なんてひどい奴であろうか。
が、私とて努力している。ダイエットに成功しつつあることは既にお話ししたと思う。週に一度先生がやってきて、体重を測り一週間食べたものをチェックして、体を引き締める体操をする。これによって七キロ近く減ったのであるが、人はもっと痩せたと口々に言う。体操のせいで、ウエストのあたりがすっきりしたせいだ。おかげで冬から春にかけて買ったものがすべてだぶだぶになってしまった。人間の感覚というのはすごいもので、久しぶりに行ったお店では担当の人が昔のサイズを出してきてくれる。すると目が「違う!」と拒否してしまうのだ。
「私がどうしてこんな大きなものを着るのよ」
確かに袖《そで》をとおすと余ってしまう。今までこのサイズのスカートをはいていたなんて信じられないような気分。
痩《や》せて何が変わったかというと、普段の格好がすごくおしゃれになったということですね。今までうちにいる時、毛玉のついたセーターに猫毛だらけのスカート、しかもウエストがきついのでジッパーを半分はずして着るなんていうことはざらであった。うちの夫でさえ、
「家にいる時、もうちょっとまともな格好が出来ないのか」
と小言をいう始末。とにかくらくちんなものを選んで着ていたのだ。けど痩せた今は違うわ。可愛いニットに、ジル・サンダーのジーンズかパンツを組み合わせている。昔買っておいたブランド品も、おうちの中のお洋服に総動員させている。そうよね、ニットなんていくら高くたって所詮《しよせん》はニット、おうちの中で楽しく着なくっちゃね。
このあいだは友人の誕生パーティがあった。ホテルで行われた盛大なパーティで、
「ステキな男の人がいっぱい来るから、うんとおしゃれをしてきてね」
と友人から電話が入った。まあそれなりの格好をして出かけたのだが、あまり痩せていたので皆はびっくりしたみたいだ。
「すっごくキレイになったわね」
と人々は誉めてくれるけれども、やっぱり空しくなる私なの。なぜならその日の朝、このあいだは楽しかったね、という手紙と共に別のパーティのスナップ写真が入っていた。そこには美人の友人たちと写っている私がいる。なんか女の格がまるで違うという感じ。
私なんか所詮頑張ってもこのレベルなのね……と、肩を落としたばかりなのだ。
テツオはさらにアドバイスしてくれる。
「美人とつき合って二つ三つ、なんかポイントを盗んだら、後はさっと引き揚げてくるのが賢明だぞ」
だけど私は彼女のことが好きだし、これからも友だちでいたいの。いじいじ、いじ……。
さてつい最近のことであるが、私は某有名男性と対談をした。私はこの人とたまにグループ交際をしているのだが、一対一で会ったことがない。しかし彼こそは私の中の「抱かれたい男」「再婚したい男」同時ナンバー1受賞者なのである。
「今度イタリアンでも二人で食べたいな」
と私が言ったら、彼もいいよと快諾してくれ約束が出来上がった。が、その場にイヤな女が同席していた。大助花子の花子そっくりな魔性の女、編集者のナカセである。彼女もこの男性に憧《あこが》れていて、自分の担当でもないのに同席していたのだ。彼女の恨めしそうな視線に負け、私は力なく言った。
「あなたも来てもいいわよ……。もうこうなったら仕方ないわ……」
「ハヤシさん、一生恩に着ます」
彼女は目をうるませんばかりだ。
「でもハヤシさん、私だから誘ってくれたんでしょう。Hさん(日本一の美人編集者)だったら絶対に誘いませんよね」
そのとおりだけど、私も結構他の人を傷つけているのだとちょっと反省した。