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遠野物語63

时间: 2019-08-25    进入日语论坛
核心提示:六三 小《を》国《ぐに》の三浦某といふは村一の金持なり。今より二、三代前の主人、まだ家は貧しくして、妻は少しく魯《ろ》鈍
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 六三 小《を》国《ぐに》の三浦某といふは村一の金持なり。今より二、三代前の主人、まだ家は貧しくして、妻は少しく魯《ろ》鈍《どん》なりき。この妻ある日門の前を流るる小さき川に沿ひて蕗《ふき》を採りに入りしに、よき物少なければしだいに谷奥深く登りたり。さてふと見れば立派なる黒き門の家あり。いぶかしけれど門の中に入りて見るに、大なる庭にて紅白の花一面に咲き鶏多く遊べり。その庭を裏の方へ廻れば、牛小屋ありて牛多くをり、馬舎ありて馬多くをれども、いつかうに人はをらず。つひに玄関より上りたるに、その次の間には朱と黒との膳《ぜん》椀《わん》をあまた取り出したり。奥の座敷には火鉢ありて鉄《てつ》瓶《びん》の湯のたぎれるを見たり。されどもつひに人影はなければ、もしや山男の家ではないかと急に恐ろしくなり、駆け出して家に帰りたり。この事を人に語れども実《まこと》と思ふ者もなかりしが、またある日わが家のカ《*》ドに出でて物を洗ひてありしに、川上より赤き椀一つ流れて来たり。あまり美しければ拾ひ上げたれど、これを食器に用ゐたらば汚しと人に叱られんかと思ひ、ケセネギツの中に置きてケ《*》セネを量る器となしたり。しかるにこの器にて量り始めてより、いつまで経ちてもケセネ尽きず。家の者もこれを怪しみて女に問ひたるとき、始めて川より拾ひ上げし由をば語りぬ。この家はこれより幸福に向かひ、つひに今の三浦家となれり。遠野にては山中の不思議なる家をマヨヒガといふ。マヨヒガに行き当たりたる者は、必ずその家の内の什器家畜何にてもあれ持ち出でて来べきものなり。その人に授けんがためにかかる家をば見するなり。女が無慾にて何物をも盗み来ざりしがゆゑに、この椀みづから流れて来たりしなるべしといへり。(注㈵ このカドは門にはあらず。川戸にて門前を流るる川の岸に水を汲み物を洗ふため家ごとに設けたる所なり。注㈼ ケセネは米稗その他の穀物をいふ)
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