八八 これも似たる話なり。土淵村大字土淵の常堅寺は曹洞宗にて、遠野郷十二か寺の触《ふれ》頭《がしら》なり。ある日の夕方に村人何某といふ者、本《もと》宿《じゆく》より来る路にて何某といふ老人にあへり。この老人はかねて大病をしてをる者なれば、いつの間によくなりしやと問ふに、二、三日気分もよろしければ、今日は寺へ話を聞きに行くなりとて、寺の門前にてまた言葉を掛け合ひて別れたり。常堅寺にても和尚はこの老人が訪ね来たりしゆゑ出迎へ、茶を進めしばらく話をして帰る。これも小僧に見させたるに門の外にて見えずなりしかば、驚きて和尚に語り、よく見ればまた茶は畳の間にこぼしてあり、老人はその日失せたり。