三一 前にいう松崎沼の傍には大きな石があった。その石の上へ時々女が現われ、また沼の中では機を織る梭《ひ》の音がしたという話であるが、今はどうか知らぬ。元禄頃のことらしくいうが、時の殿様に松川姫という美しい姫君があった。年頃になってから軽い咳《せき》の出る病気で、とかくふさいでばかりいられたが、ある時突然とこの沼を見に行きたいと言われる。家来や侍女がいくら止めても聞き入れずに、駕《か》籠《ご》に乗ってこの沼の岸に来て、笑みを含みつつ立って見ておられたが、いきなり水の中に沈んでしまった。そうして駕籠の中には蛇《じや》の鱗《うろこ》を残して行ったとも物語られる。ただし同じ松川姫の入水したという沼は他にも二、三か所もあるようである。