四〇 昔無尽和尚が東禅寺の伽《が》藍《らん》を建立しようとした時、境内に清い泉を欲しいと思い、大きな丸形の石の上に登ってはるかに早池峰山の神様に祈願した。ある夜美しい女神が白馬に乗ってこの石上に現われ給い、無尽に霊泉を与えることを諾して消え失せた。一説には和尚、その女神の姿を描いておこうと思い、馬の耳を画き始めた時にはすでにその姿は消えてそこになかったともいう。来迎石と呼んでいるのはこの石のことであるが、また別にこの来迎石は、早池峰山の女神が無尽和尚の高徳に感じ、この石の上に立たれて和尚の誦経に聞き入った処だとも伝えている。女神から授けられた泉は、奴の井とも開慶水とも言い、今に湧き澄んでおり、この泉に人影がさせば大雨があると伝えられ、井戸のかたわらに長柄の杓を立てておくのはそのためだという。