四五 これより少し先のこと、この爺が山中でにわかに足腰が立たなくなって、草の上につっぷしていたところが、この清水が身近に湧き出しているのに気がつき、これを飲みかつ痛む箇処に塗りなどすると、たちまち躯の痛みが去って、気分さえさっぱりしたというのが、この清水の由来であった。松崎村役場の某という若者の書記が、こんなばかげたことが今日の世の中にあるものかと言って山に行ったが、清水の近所まで行くと、たちまち身動きができなくなって、傍らの草叢の上にうち倒れた。口だけは利くことができたので、虎八爺に助けてくれと頼むと、お前の邪心は許しがたいが、せっかくの願いゆえ助けてはやる。今後はけっしてかような慢心を起こしてはならぬと戒めて、その清水を汲んで飲ませた。するとすぐに躯の自由が利くようになったそうである。これはその直話である。