五八 附馬牛の宿《しゆく》の新《しん》山《ざん》神社の祭礼の日、遠野の八幡様の神楽を奉納したことがあった。その夜八幡の権《ごん》現《げん》様《さま》は土地の山本某という家に一宿したが、その家も村の神楽舞いの家であったので、奥の床の間に家つきの権現様が安置してあって、八幡の権現をばその脇に並べて休ませた。ところが夜更けになって何かはなはだ烈しく闘うような物音が奥座敷の方に聞こえるので、あかりをつけて起きて行って見ると、家の権現とその八幡とが、上になり下になって咬み合っておられる。そうしてとうとう八幡の権現の方が片耳を喰い切られて敗北したということで、今にこの獅子頭には片耳がないという話。維新前後の出来事であったように語り伝えている。