六三 これは維新の少し前の話だという。町の華《け》厳《ごん》院《いん》に火事が起こって半焼したことがあった。始めのうちはいかに消防に力を尽してもなかなか火は消えず、今に御堂も焼け落ちるかと思う時、城から見ていると二人の童子が樹の枝を伝って寺の屋根に昇り、しきりに火を消しているうちにおいおい鎮火した。後にその話を聞いて住職が本堂に行って見ると、二つの仏像が黒く焦げていたということである。その像は一体は不動で一体は大日如来、いずれも名ある仏師の作で、御《お》長《たけ》は二寸ばかりの小さな像であるという。