六八 前に言った会《え》下《げ》の十王様の別当の家で、ある年の田植え時に、家内じゅうのものが熱病にかかって、働くことのできる者が一人もなかった。それでこの田だけはいつまでも植つけができず黒いままであった。隣家の者、困ったことだと思って、ある朝別当殿の田を見廻りに行ってみると、誰がいつの間に植えたのか、生き生きと一面に苗が植え込んであった。驚いて引き返してみたが、別当の家では田植えどころではなく、皆枕を並べて苦しんでいた。怪しがって十王堂の中を覗いてみたら、堂内に幾つもある仏像が皆泥まみれになっていたということである。