七二 字山口の瀬川春助という人も、それより少し前に、浜へ行って八十円の金を盗まれた時、やはりこの神を頼んで来て罪人がすぐに現われ、表沙汰にせずに済んだ。明治四十三年に字本《もと》宿《じゆく》の留場某の家が焼けた時には、火をつけた者が隣部落にあるらしい疑いがあって、やはり三峰様を頼んで来て両部落の者が集まって祭りをしたが、その時は実は失火であったものか、とうとう罪人が顕われずにしまった。
七三 この祭りが終わると、すぐに三峰様は衣川へ送って行かなければならぬ。ある家ではそれを怠って送り届けずにいたために、その家の馬は一夜のうちにことごとく狼に喰い殺されたこともあったという。