七四 土淵村山口の南沢三吉氏のオクナイサマは、阿弥陀様かと思う仏画の掛軸であるが見れば眼がつぶれるから見ることができぬといっている。大同の家のオクナイサマは木像で、これに同じ掛軸がついているのであるが、南沢の家のはこればかりである。外に南無阿弥陀仏と書いた一軸の添えられてあることは両家共に同様であった。この南沢の家では、ある夜盗人が座敷にはいって、大きな箱を負うて逃げ出そうとして手足動かず、そのまま箱と共に夜明けまでそこにすくんでいた。朝になって家人がこれを見つけてびっくりしたが、近所の者だから、早く行けとののしって帰らせようとしたが、どうしても動くことができない。ふと心づくと仏壇の戸が開いているので、すぐにオクナイサマに燈明を上げて、専念にその盗人にお詫びをさせると、ようやくのことで五体の自由を得た。今から八十年ばかりも前の話である。