七七 オシラ様の由来譚も土地によって少しずつの差異がある。たとえば附馬牛村に行なわれる伝説の一つでは、天《てん》竺《じく》のある長者の娘が馬にとつぎ、その父これをにくんでその馬を殺して皮を松の木の枝に懸けておくと、娘はその樹の下に行き恋い慕うて泣いた。枝に懸けてある馬の皮はその声につれて翻り落ち、娘の体を包んで天に飛んだという。遠野の町あたりでいう話は、昔ある田舎に父と娘とがあって、その娘が馬にとついだ。父はこれを怒って馬を桑の木に繋《つな》いで殺した。娘はその馬の皮をもって小舟を張り、桑の木の櫂《かい》を操《あやつ》って海に出てしまったが、後に悲しみ死にに死んで、ある海岸に打ち上げられた。その皮舟と娘の亡骸とから、わき出した虫が蚕になったという。さらに土淵村の一部では、次のようにも語り伝えている。父親が馬を殺したのを見て、娘が悲しんでいうには、私はこれから出て行きますが、父は後に残って困ることのないようにしておく。春三月の十六日の朝、夜明けに起きて庭の臼《うす》の中を見たまえ、父を養う物があるからと言って、娘は馬と共に天上に飛び去った。やがてその日になって臼の中を見ると、馬の頭をした白い虫がわいていた。それを桑の葉をもって養い育てた云々というのである。