八一 附馬牛村の竹原という老爺、家にオシラ神があったのに、この神は物咎めばかり多くて御利益は少しもない神だ。やれ鹿《しし》を食うなの肉を食うなのと、やかましいことを言う。おのれここへ来て鹿を喰《くら》えと悪口して、鹿の肉を煮る鍋の中へ、持って来て投げ込んだ。そうするとオシラサマはたちまち鍋より飛び上がって炉の中へ落ち、家の者は怖れて神体を拾い上げて仏壇に納めた。後にこの家の焼けた時にも、神は自分で飛び出して焼けず、今でも家に在ると、その老人の直話を聞いた者の話である。気仙の上《かみ》有《あり》住《す》村の立花某、家にオシラサマがあって鹿を食えば口が曲がるという戒めがあるにもかかわらず、その肉を食ったところがはたして口が曲がった。とんでもない事をする神様だと、怒って川に流すと、流れに逆らって上って来た。これを見て詫びごとをして持ち帰って拝んだけれども、ついに曲がった口はなおらなかった。