八二 栃内の留場某というのはこの神のある家の者で、四十余りの馬喰《ばくろう》渡世の男であったが、おれは鹿の肉をうんと食ったが、少しも口は曲がらなかったと、いばって語っているのを聞いた。火石の高室某という人はこれに反して、鹿の肉を食って発狂した。これもオシラサマのある家であった。後に巫女《いたこ》を頼んで拝んでもらって宥《ゆる》された。浜の大槌町の某という人も、やはりこの神を持ち伝えた家であったが、鹿の肉を食って口が曲がった。巫女《いたこ》の処へ行って尋ねると、遠野に在るオシラ神と共に祟っているということなので、山口の大同の家まで拝みに来たのを、佐々木君の母は見られたという。