一〇八 土淵村字山口の石田某の家の男たちは、いずれも髪の毛を掻き乱し、目は光り、見るからに山男らしい感じがする。夏の禁猟期間は川漁をしているが、それ以外は鳥獣を狩りて日を送っている。この家は元は相当の資産家で田畑もあったが、男たちが農を好まぬためにしだいに畑が荒れ、もてあましては売ってしまって、今は村一の貧乏人になった。家屋敷も人手に渡し、山手の方に小さい家を建ててそこに住んでいる。自製の木弓で自由に小鳥の類まで射落し、これを食料に足しているようである。それから分家した次男も農をせず、狩りに親しんでいる。