一三四 土淵村の大楢という処に、昔は林吉という金持が栄えていたそうなが、今はその家の跡もない。この家には一疋の白い犬を飼っていたのを、何か仔細があってその犬を殺し、皮を剥いで骸を野原に棄てさせた。するとその翌日家の者が起きて土間の地火炉に火を焚こうとして見ると、昨日の犬が赤くなって来てあたたまっていた。驚いて再び殺し捨てたが、その事があって間もなく、続けさまに馬が七頭も死んだり、大水が出て流されたりして、家が衰えてついに滅びてしまった。豪家の没落には何かしら前兆のあるもののように考えられている。